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シグマは高級レンズでカメラマーケットをリードする(その1)

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元記事:Sigma CEO leads premium push in camera market (Q&A)


山木和人がCEOになってから、シグマは高級レンズを主な収入源にする会社に変貌を遂げた。しかし、カメラはまだビジネスとして成功しているとは言いがたい。



シグマは現在、良い方向に進んでいるようだ。

かつてのシグマは廉価な交換レンズが製品の主力だった。キヤノンやニコンといった大企業のレンズよりも性能には劣るが安価なレンズを発売してきた。しかし、今のシグマにその面影は全くない。

CEOの山木和人は現在46歳。彼は2012年の1月に現在の職に就き、同族経営で1600人の従業員を抱える会社を率いている。山木和人のCEO就任以降に発表された数々の高性能で高価なレンズ群は、シグマのイメージを高めることに成功した。

そのようなレンズの代表が35mm F1.4 DG HSM、50mm F1.4 DG HSM、そして18-35mm F1.8 DC HSMである。これらは比較的小型のレンズだが、シグマはフォトキナでもっと巨大なレンズを二本新しく発表した。高性能な150-600mm F5-6.3 GD OS HSM Sports(25万円で10月に発売予定)と、それよりもいくらか小型の150-600mm F5-6.3 GD OS HSM Contemporaryである。こちらの詳細はまだ未定だ。

CNETのスティーブン・シャンクランド記者はフォトキナの会場で山木和人にインタビューを行い、シグマの経営戦略の変化について話を聞いた。

Q:シグマの新しいレンズはどれもとても高い評価を得ています。どうしてシグマは高級レンズ路線を取っているのでしょうか?

山木:それには理由が2つあります。まずシグマは今でも同族経営の会社だということです。私は写真と社員の家族の生活に対して責任があります。私が最も優先していることは、この社員の生活を守るということです。

私たちは今でも全ての製品を日本で製造しています。1990年代の半ばに、日本円は急激に上昇しました。また、日本での製造コストはとても高くつくので、多くのカメラメーカーが中国やタイ、マレーシアなどに製造拠点を移しました。

私たちは日本での製造を続けたかったのです。しかし、低価格の製品を作っていては日本に留まることはできません。製造コストがどれだけ高くついても、高性能レンズを作るしかなかったのです。一番売れ筋の低価格帯から、中・高価格帯へと製品のラインナップを変えていく必要に迫られたのです。

Q:ここ数年は円安傾向が続いているので、日本の製造業にとっては有利な状況ではないのですか?

山木:そうですね、3年前と比べるとずいぶん良くなりました。しかし、製造コストは高いままです。けれども、通貨は理由の一つに過ぎません。ビジネスというのは単にお金と利益だけの話ではないんですよ。そこにどれだけ情熱を注げるかということが何よりも大事なのです。

私たちは写真とカメラが大好きです。なので、良い製品を作ってユーザーに喜んでいただけることが何よりの楽しみなのです。私たちのエンジニアや工場のスタッフはノウハウや経験を積み重ねているので、より性能の高い製品を作ることが可能なのです。

Q:低価格帯と高価格帯の売上比率はどのように変わったのでしょうか?

山木:10年前はおそらく売り上げの80%から90%は低価格帯の製品からなっていました。現在は売り上げの70%は高価格帯です。

15年前、私たちの市場での販売数のシェアは売り上げのシェアよりもはるかに高かったんです。私たちは他のメーカーよりも低価格の製品を多く売っていました。現在ではそれが逆転して販売数シェアよりも売上シェアの方が高くなっています。

Q:スマートフォンによって低価格帯のカメラ市場は壊滅しています。カメラメーカーは愛好家やプロ向けの製品に移行し始めています。ユーザーはスマートフォンでは撮れない写真を欲しているのでしょうか?

山木:はい、そうだと思います。デジタルカメラ市場はスマートフォンによって大きく変わろうとしています。デジタルカメラ市場は最大で年間120万台も売れた時がありました。しかし今年は30万台以下です。だいたい4分の1にまで縮小しました。

けれども、フィルムカメラ時代のことを考えてみると、その販売台数はかなり安定していて、だいたい20万台から30万台の間だったんです。これは個人的な意見ですが、おそらくこれまでは単純に売れすぎていたので、それが通常の状態に戻っただけなんだと思います。この3~4年で市場そのものがかなり縮小しました。しかし、今はある意味で安定しています。写真が好きな人の数というのはおそらくそれほど変わっていないのでしょう。単に今までがカメラ業界にとってのバブル景気だったのです。

Q:10年前、シグマにとって大事なことはキヤノンやニコンに向けてレンズを作ることでした。というのも、その二つのメーカーがカメラとレンズの市場を独占していたからです。しかし、現在では、ミラーレスの登場で状況は変わっています。フジ、ソニー、サムソン、パナソニック、オリンパス、ペンタックス、そしてキヤノンとニコンもそれぞれミラーレスカメラを発売しています。これら異なるカメラボディにレンズを供給していくことは困難なことなのでしょうか?

山木:市場に多くのカメラが溢れ、消費者の選択肢が増えるのは良いことだと思います。かつてよりもカメラ市場は豊かになっていると感じます。とても良い傾向ですね。

シグマはそれほど大きな会社ではありませんし、私たちは市場を独占しているわけでもありません。従って、全てのカメラユーザーをサポートする必要はないと考えています。私たちの使命は高性能なレンズを、真剣に写真に取り組んでいるユーザーに届けることです。

Q:最近も新しいミラーレスカメラが数多く発売されました。シグマにとっての優先事項は何でしょうか?

山木:特定のマウントにこだわる必要はないと考えています。しかし、ハイエンドなカメラ、例えばソニーα7、オリンパスOM-D、パナソニックGHシリーズ、そしてフジフィルムのXシリーズ。これらのカメラのユーザーには、私たちの製品を届けなければいけないと思います。

Q:ある一つのレンズを他のマウントで使うことに制限はあるのでしょうか?

山木:それは単純にイメージサークルの大きさですね。APS-Cサイズ用のレンズはマイクロフォーサーズにも使うことができます。

Q:実際には光学系だけの問題ではないですよね。AFや絞りの制御といった、レンズとボディを繋ぐ電子系の開発をそれぞれのメーカー用に行うのは難しくはありませんか?

山木:ソニー、オリンパスなどのフォーサーズ、そしてフジフィルムのシステムはそれぞれ全く異なっています。これを開発するには多くの情報が必要です。私たちシグマはマイクロフォーサーズに参加していますし、ソニーとも協力しています。

Q:キヤノンは規格を公開したりライセンスをしていません。

山木:キヤノンやニコン向けのレンズを作るには、そのバヨネットだけでなく、特許を使用しなければいけません。シグマは特許使用料を支払っています。もちろんそれだけではなく、常にリバースエンジニアリングを行っています。

複数のマウント向けにレンズを作ることは別の難しさがあります。例えばオートフォーカスのレンズは非常に多くの部品からなっているのですが、仮にフォーカスリングの向きを変えるとすると、レンズの配置そのものまで変更する必要が出てきます。私たちがレンズを製造するときは、まず光学系の設計から入ります。この時点で、モーターはどこに置くのか、アクチュエータはどこか、手ブレ補正はどこに配置するのか、全部決めなければいけません。レンズの設計に関することは全て最初に決まってしまうので、レイアウトを変えるということは全く同じレンズを作ることと同義なのです。






シグマは高級レンズでカメラマーケットをリードする(その2)

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(その1の続き)


Q:CADやCAEといったコンピュータの発達で、レンズ設計はどのように変わりましたか?もちろん、レンズ設計の時に、最適な配置を見つけるため多くのシミュレータを走らせていると思います。

山木:コンピュータによってレンズ設計のあり方は全く変わりました。私が入社した頃でも、設計者はパソコンにデータを入力し計算をさせていたのですが、光線の追跡を行うだけでも20分から30分はかかっていました。現在では同じ作業は30秒でできます。今のエンジニアはパソコンを使ってとても能率的に仕事ができています。

しかし、問題になってくるのはレンズは設計だけではダメだということです。レンズエレメントを研磨するのはとても難しいので、設計できても実際に製造できるかどうかが問題になってくるのです。レンズ製造業者にとって、工場の製造能力というのは依然として重要です。シグマの工場は難しいエレメントも生産できますので、シグマのレンズ設計は自由度が高いのです。シグマが世界最高だとは言いませんが、業界の中でも最高レベルにいることは確かです。

Q:150-600mmの超望遠レンズを二種類発表したのはなぜなのでしょうか?

山木:元々は一つのレンズの設計から始まったんです。現行の150-500mmの後継機はどうすべきかをまず考え始めました。まず望遠端を600mmまで伸ばしたいというのが最初に考えたことです。実際の設計を始めたのは2年前なのですが、その時私たちは3つのゴールを決めました。一つ目。最高の光学性能を達成すること。二つ目。防塵防滴を備えた最高の鏡筒を作ること。そして三つ目。軽量でコンパクトなレンズを作ることです。

しかし、実際に開発を始めてみると、この三つを同時に高いレベルで達成するのは極めて難しいことがわかりました。なので、二つ製品を作ろうと決めました。最高の画質と鏡筒をプロ向けとして作り、コンパクトで軽量なモデルを別に作ろうと。

Q:今後発売されるレンズはどのようなものになりそうでしょうか?70-200mmのように人気のあるレンズの後継機なのか、それとも他のメーカーが出していない新しい製品なのでしょうか?

山木:私たちには二つの方向性があります。一つは50mm F1.4のような歴史のあるレンズを作っていかなければいけないということ。もう一つはこれまで市場に存在していなかった斬新なレンズを作ることです。私はそういう製品を作りたいといつも思っていますし、大きなモチベーションでもあります。シグマ自身、それまでにはなかった新しいレンズを発売していくという伝統があります。例えば70年代にシグマは世界初の広角ズームレンズを発売しました。21-35mmです。私たちは常に新しいものに挑戦し続けているのです。

Q:では、今年もなにか新しいものが発売されるのでしょうか?

山木:今年発売の製品は既に発表済みです。来年もいくつか新製品を発売します。

Q:全く新しい何かですか?

山木:そうですね、来年出します。

Q:それはズームレンズですか?それとも単焦点ですか?

山木:両方です。いや、実際にはまだ開発中なんですよ。実を言うと、そもそも発売できるかどうかもわかっていません。新製品の開発というのはとてもリスクが高いのです。時には開発の途中で発売を断念しなければいけないこともあります。そういう意味で18-35mm F1.8を発売までこぎつけたのはとても幸運だったと思っています。

Q:シグマのカメラについてはどうでしょうか?独自のフォビオンセンサーを搭載していますが、あまり成功しているようには見えません。

山木:カメラメーカーになるというのは私の父の夢でした。彼のビジネスを引き継いだ以上、それは私の夢でもあります。ここでやめるわけには行きません。

もう一つ続けている理由は、デジタルカメラを作り始めてから、私たちのレンズの性能が飛躍的に向上したからです。私たちの使用しているフォビオンセンサーはとても高解像です。このセンサーの解像度についていくためには、レンズ性能も高くなければいけません。カメラとレンズを両方作ることで、大きな相乗効果があるのです。

Q:カメラ事業が会社にもたらす利益はどれほどなのでしょうか?

山木:全くありません(笑)

私たちはとても独特な会社なんです。シグマはセンサーも自分たちで作っています。これはとてもお金がかかります。通常はキヤノン、ソニー、サムソン、パナソニックといった大手企業しかセンサーを開発しません。自社でセンサー開発部門を持っている会社はそれほど多くはないんです。

Q:ビジネス的に、センサー事業は今後伸びていくのでしょうか?例えばフォビオンセンサーを他社に供給することはできるのですか?

山木:工場の生産工程を監視するモニター用のセンサーとして販売できるのではないかと考えています。現在は協力してくれる企業を探しているところですが、今のところそういう会社はないですね。

なぜかというと、もし他社がフォビオンを使おうと思ったら、その会社が自前でイメージプロセッサ―を開発する必要があるからです。センサーを販売すると、その開発に協力しなければいけなくなります。残念ながら私たちの技術者の数も限られているので、どうしても積極的に売るということは難しくなります。

Q:ニコンはD750を発表し、キヤノンも6Dがあります。フルサイズ一眼レフはコストが下がりマーケットシェアも上昇していますが、シグマはこの流れについてどう考えていますか?

山木:それについていかなくてはいけないと思っています。フルサイズを使うユーザーは増えています。シグマはそれに合うレンズを出していかなくてはなりません。

しかし、それと同時にAPS-C用レンズの開発も意識的に行っていきます。APS-Cにはいくつか利点があります。例えばフルサイズ用にレンズを作るとき、周辺まで高解像なレンズを作るのはとても難しくなります。仮に出来たとしてもサイズが大きく値段も高くなります。性能の良いレンズを作りやすいという意味では、まだまだAPS-Cにアドバンテージがあると思います。




フォトキナ2014 山木社長による150-600mm F5-6.3 DG OS HSMプレゼン

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今回新しく150-600mmを発表するにあたり、そのコンセプトと、どのような経緯で開発に至ったのか、説明させていただきたいと思います。

まず私たちが考えたのは150-500mmのリニューアルでした。そのために三つの目標を掲げました。

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一つ目は高い光学性能です。特に倍率色収差をなくすことを目指しました。

二つ目はレンズ本体の製造レベルを上げることです。また、防塵防滴は必須だと考えました。。

三つ目は軽量でコンパクトなサイズにすることです。現行の150-500mmは比較的小型なので、このサイズを維持するのを目指しました。

しかし、長い議論を重ねるにつれて、この三つをすべて高いレベルで満たすのはとても難しいことがわかりました。最終的に、このプロジェクトを二つに分けることに決めました。

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まず、高い光学性能と防塵防滴をスポーツライン用のレンズとして、そして、小型で軽量のレンズはコンテンポラリー用のレンズとして開発しようと決めました。

しかし、このように言うとコンテンポラリーレンズは画質が低く、レンズボディの作りも悪いのではないか、と思われるかもしれません。しかし、そうではありません。コンテンポラリーも既存のレンズより高い品質と性能を備えています。

これは、単に優先順位の違いなのです。スポーツラインでは光学性能と防塵防滴をサイズよりも優先しました。コンテンポラリーラインでは、何よりもサイズと軽量さを重視しましたが、それでいて画質もボディの質も高いレベルを維持しています。

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まとめると、どちらのレンズも既存のレンズより高い光学性能、高品質なボディ、そしてさらに多くの特徴を備えています。両方とも、使用していただく方には、最高の性能と、ワクワクするような体験をしていただけると確信しています。

これからこの二つのレンズの特徴を簡潔に説明させていただきたいと思います。

まずスポーツラインから始めましょう。

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スポーツラインはプロ写真家向けに設計されています。強固で耐久性が高い設計がなされています。

最初に強調しておきたいのは、もちろん優れた光学性能です。

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このレンズは2枚のFLDガラスを使用しています。FLDは蛍石と同等の光学性能を持っています。その2枚のFLDと3枚のSLDガラスを使用しています。この計5枚の特殊ガラスにより、倍率色収差を極限まで減らすことが可能になりました。まず、高画質であること、それが最初に強調しておきたいことです。

二つ目は防塵防滴構造を備えているということです。

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このイラストはスポーツラインのレンズの構造です。そして、赤い部分がゴムシールです。このレンズでは全ての接合部にシールを施し、チリや水滴がレンズ内部に浸入するのを防いでいます。

ここでこのレンズの防塵性能をどのようにテストしたのかお見せしたいと思います。



実際にこのようにして私たちは防塵性能をテストしました。

また、防滴性能もテストしています。



さて、他の特徴は、全ての焦点距離でズームロック機能を持ったことです。この機能を持つのはこのレンズが世界初です。

他の望遠レンズと同様に、このレンズも当然広角端でズームロックができます。しかし、このレンズは焦点距離が変わってもズームロックが出来るのです。180mm、250mm、300mm、400mm、500mm、そして600mmです。

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例えば撮影する時にレンズを上に向けたり、下に向けたりします。三脚に据えている時でも、焦点距離が変わって欲しくない時があります。このズームロックをすることで、焦点距離を固定することができます。

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さらに、ズームリングに少し力を入れるとこのロックを解除できます。

このようにロックして、そしてキャンセルできます。

さらに、レンズを衝撃から守るために、全面から力が加わってもロックは解除されます。


次は防水・防油コーティングです。

屋外での長時間に渡る撮影に対応するために、レンズの前玉と後玉に防水・防油コーティングを施しました。このコーティングの性能をお見せしたいと思います。

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通常のコーティングの場合は、レンズにマーカーで何かを書くことができます。

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これが防水・防油コーティングされたレンズです。

このコーティング性能はプロ写真家にとっても魅力的でしょう。


次はマニュアル・オーバーライド・スイッチです。

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このレンズのフォーカススイッチにはマニュアル・オーバーライドという設定があります。スイッチをここに設定しておけば、フォーカスリングを回すだけでAFからMFにすぐに切り替えることが可能になります。コンティニュアスAFの最中であっても、この切り替えは可能です。


次は新しい三脚座です。

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今回新しく三脚座を設計し直し、簡単に90度レンズを回転させる事ができます。これによって、手軽に横位置から縦位置へと切り替えることができます。

三脚座にはストラップ用のコネクタが付いていますから、持ち運びも容易です。


ズームの変更も容易になりました。

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通常のようにズームリングを回して焦点距離を変えれるだけではなく、レンズそのものを押したり引いたりしても簡単にズームできます。持つところはラバーコーティングされていますので、操作もしやすくなっています。

フードは金属部品にラバーコーティングされていますから、衝撃を受けた時にもフードが衝撃を吸収して、レンズを保護する事ができます。



手ブレ補正が加速度に対応しました。

新しい手ブレ補正機能は特殊な状況にも対応できるよう加速度を検知することができます。これによってモータースポーツなどの高速で動く被写体の撮影に最適化させることができるようになりました。

手ブレ補正センサーも水平、垂直の両方の動きに対応しているので、ブレの補正がより正確になりました。



AF性能の向上

超音波モーターによって、AFはとても静かで高速です。コンティニュアスAFモードでもこれまでより正確にフォーカスが可能になりました。



このレンズも様々な設定をカスタマイズ可能です。

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USBドックとSIGMA Optimazation Proを使うことで、レンズのファームウェアのアップデートや、AF速度、マニュアル・オーバーライド、フォーカスリミッター、手ブレ補正パターン、など、多くの設定を変更できます。

これらの設定はカスタムモードに登録できるので、スイッチをいれるだけですぐに使用できます。

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以上はスポーツラインのレンズの特徴ですが、コンテンポラリーラインのレンズも同じ機能をいくつか備えています。


この表がスポーツラインとコンテンポラリーラインとの違いです。

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まず、防塵防滴はスポーツラインのみです。手動でズームができるのもスポーツのみで、さらにコンテンポラリーの三脚座は通常の取り外し可能なものです。

しかし違いはこれだけです。他の特徴はコンテンポラリーラインのレンズも共通です。

発売日などの詳細はまだ未定です。



(注:今回の記事の元動画は途中で切れている部分がいくつかあったので、シグマの公式動画の内容などからプレゼンの中身を推測して一つの記事にまとめました。以下が記事の元になった動画です)




シグマCEO山木和人がレンズ設計の哲学を語る(Photokina 2014)

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私たちは先日シグマCEOの山木和人氏にインタビューする機会を得ることができた。そこで最近のシグマのヒット商品や独創的なdp Quattro、そしてレンズ設計の哲学について話を聞いた。また、シグマは日本の会津工場で全てのレンズを生産し、なおかつ株式非公開である。そのシグマのカメラ業界での立ち位置についても話を聞くことができた。

Q:35mm F1.4や50mm F1.4といったシグマのアートシリーズのレンズはその高性能と手頃な価格から、とても高い評価を受けています。特に50mmの評判はいいですね。これらのレンズを設計する上で目標に掲げたのは何だったのでしょうか?最初に価格目標を設定したのですか?

A:目標はとても単純なものです。私は技術者に「これまでのレンズの歴史の中で、最高のものを作れ」と指示しただけです。私はCEOになる前はレンズ設計部の責任者をしていました。そこで働いた経験から、単純な指示を出せば技術者は最高の仕事をしてくれるということを知りました。なので、アートシリーズのようなレンズを作るときは、設計者や技術者に「最高のものを作れ」と言うだけなんです。


シグマ 50mm F1.4
最高の画質と手頃な価格を両立したこのレンズは多くの写真愛好家から賞賛されている。


Q:シグマの50mm F1.4はとても評価が高く、ツアイスのOtus 55mm F1.4とよく比較されます。Otusのような高価なレンズに匹敵する性能を、どうやってこの価格で達成したのでしょうか?

A:良い質問ですね。それにはいくつか理由があります。まずシグマの工場には高い技術を持ったスタッフがいます。彼らは経験豊富で高度な技術を持っていますから、設計部門から上がってきた仕様や設計を拒否したりしないんです。

他の会社では製造が困難なので、現場が設計を拒否するということがあると聞きます。この50mm F1.4も工場のスタッフにとってかなり製造が難しいのですが、彼らは設計通りに作りました。これが理由の一つです。

もう一つは、シグマの会津工場は垂直統合されているので、工場内でほとんど全ての作業を行っているということです。これはつまり他の会社に余分なお金を支払わなくてもいいということでもあります。こうやってコストを削減しているのが二つ目の理由ですね。


Q:シグマは同族経営の会社で、材料や部品の調達も日本の会社が中心だと聞きました。他の会社と異なる経営をしているのはなぜなのでしょうか?

A:会社の所有者として、あるいは経営の責任者として、私が最重要視していることは経営を持続し、従業員とその家族を守ることです。これが一番大事なことです。高い売上や利益を作ることが第一ではありません。

およそ15年ほど前に日本円が高くなり、多くの日本の企業が工場を海外に移転しました。私たちにも海外移転の圧力がかかっていたのですが、従業員と家族を守るために日本に留まることを決断したのです。

日本に残るために私たちは経営方針を変えました。低価格な売れ筋商品を中心としたビジネスから、ハイエンドで高性能な商品が中心となるようにしたのです。私たちは従業員の雇用を第一に考えているので、ここが他の会社と大きく違うところですね。

シグマはレンズだけでなくカメラも作っている。dp Quattroのデザインは独特だ。


Q:シグマのdp Quattroはとても面白いカメラですね。このような奇抜なデザインになった理由は何なのでしょうか?

A:まず最初に、このカメラを安定して保持するためにどのような形状が一番なのかを、社内で集中して議論しました。クワトロはとても高い解像度を持っていますから、ほんの僅かなブレでも画面に出てしまうんです。なので一番に優先したのが、安定して保持できる形状にすることです。

けれども、このカメラは本当に特別なカメラなのです。世間的には「コンパクトデジタルカメラ」の中に分類されていますが、全くコンパクトではありません。画質は大げさに言ってしまうと中判デジタルに匹敵します。個人的な意見を言わせてもらえば、このカメラと同じようなカメラは他に一つもないのです。このカメラは他のカメラと比べても特別なものなので、デザインそれ自体がカメラの特殊性を表現しているとすると、とても面白いのではないか。私たちはそう考えました。

シグマ 50mm F1.4
フルサイズカメラで使用すると素晴らしく高解像な画像を撮ることができる。


Q:クワトロの開発にかかった期間はどれくらいなのでしょうか?

A:おおよそ2年位でしょうか。カメラの開発と同時に新しいクワトロセンサーの開発も行っていましたから時間がかかりました。センサーの開発はカリフォルニアのサンタクララにあるフォビオン社の社員が行いました。カメラとセンサーの開発を同時に行う大きなプロジェクトでした。


フォトキナ2014では、交換レンズを手持ちのボディに付けて試写できることもあって、シグマブースは盛況だった。

Q:高解像度であるということ以外にフォビオンセンサーを開発する難しさは何なのでしょうか?

A:開発の難しさは色々あるのですが、一番の問題はフォビオンセンサーを作っているのが私たちだけということですね。なので、問題はセンサーだけではなく、画像処理チップやアルゴリズムなど全てを私たちシグマとフォビオンだけでやらなければならないのです。開発には多くのエンジニアが関わっていますので、とても大変ですね。


Q:これまでのdp Quattroのユーザーからの反応はどうなのでしょうか?

A:基本的にはとても好評です。中には「何という変態カメラ!気に入った!」と言ってくれる人もいます。とりわけ私たちには、ずっとシグマのカメラを使い続けてくれているロイヤルカスタマーが僅かながらいますが、その人たちはクワトロとシグマの方向性について、とても好意的に受け取ってもらっています。ユーザーの多くに気に入って頂いていると思ってます。


シグマ18-35mm F1.8は世界初のF1.8ズームレンズ。ジャーナリズムやドキュメンタリー用のレンズとしても人気が高い。


Q:シグマのレンズで人気のあるものに18-35mm F1.8があります。これは市場で唯一のF1.8ズームです。このレンズを作るにあたって困難だったことは何ですか?

A:このプロジェクトの最初に掲げたのは「世界初のF1.8ズームを作ること」でした。どんなものでもそうですけど、「世界初」というのは作るのがとても難しいんです。参考にしたり比較したりできないですからね。開発が困難なことは最初からわかっていたので、私は技術者にこうやって指示を出しました。

「性能は気にしなくていい。これは世界初のレンズだから、開発は非常に困難になる。やって欲しいことはF1.8のズームを作ること。それだけだ」

そうやって言ったので、実を言うとこんな高性能になるなんて予想もしていなかったんですよ(笑)


シグマはカメラ業界の中でも稀な株式非公開会社。すべての製品を日本の会津工場で製造している。

設計担当のエンジニアが本当に驚くべき仕事をしてくれて、ものすごい性能のレンズになってしまいました。最初にレンズのデータを見た時は本当に驚きました。「おおっ!」って声に出してしまったくらいです。

Q:他の人も同じように感じたと思います。今まで同じスペックのレンズがなかったにも関わらず、ものすごい性能なので皆が驚いたと思います。

シグマは他にも60mm F2.8のような手頃な価格のミラーレス用のレンズを出していますね。これらのレンズはどれだけ成功しているのでしょうか?

A:今のところとても上手く行っているので嬉しいですね。

シグマの使命は高性能なレンズを手に取りやすい価格で提供することです。そのために私たちの会社組織はとてもすっきりとしたものになっています。管理部門はとても小さいですし、マーケティングや営業部門もごくわずかです。

利益のほとんどは設計部門と製造部門に投資していますから、とても高性能なレンズを手頃な価格で提供できるのです。私たちのレンズのユーザーは価格と品質の両方に満足していただけていると思っています。


シグマはコンパクトな単焦点から巨大な望遠レンズまで、ほとんどすべての種類のレンズを製造している。


Q:ミラーレスカメラのユーザーは一眼レフのユーザーと比較すると交換レンズをあまり買わないというデータを見たことがあります。この傾向に何か変化は起こっていると思いますか?

A:この1~2年で変わってきていますね。ハイエンドなミラーレスカメラがたくさん発売されていますし、このユーザーは交換レンズを多く買っています。カメラマーケットは徐々に変化していると思います。


シグマ60mm F2.8レンズはミラーレス用のレンズ。2万円以下の価格でありながら素晴らしい画像が撮れる。


Q:お話されたハイエンドなミラーレスカメラの中には例えばソニーのα7があります。シグマにFEレンズを開発する予定はあるのですか?あるいは既存のレンズをFEマウントとして発売しないのですか?

A:今後の具体的な製品について話すことはできないのですが、私たちはミラーレスカメラ用レンズのラインナップを増やしていきたいとは思っています。


Q:シグマは多くのマウント向けにレンズを製造しえいます。何か特定のマウントが他のと比べて作るのが難しいという事はあるのでしょうか?複数のマウントで使えるように設計することにどんな困難があるのでしょうか?

A:それぞれのマウントには固有の難しさがありますから、特別何か一つだけが難しいとは思いませんね。私たちはそれぞれのマウント用に最高のレンズを作るよう努力しているだけです。


Q:シグマの次の製品はどのようなものになるのでしょうか?2015年に向けてどのような製品を作っていくのですか?

A:私たちの方針は変わりません。実際、デジタルカメラのマーケットは縮小しています。けれども、私たちが写真文化を尊重し続ければ、シグマは今後も生き残っていけると信じています。

写真文化を尊重するということは、写真愛好家に向けて高性能な製品を提供していくということです。マーケットのあり方はおそらく今後も変わっていくでしょう。けれども、ユーザーの求める高品質を突き詰めていけば、シグマの製品を選んでもらえると信じています。

今後の製品について言えることはそれだけです。高い品質を追求していくこと、そして最高の製品をユーザーに届けていくよう努力し続けることです。





山木社長Q&A Part2:フォビオン・クワトロセンサーは本当に3600万画素以上の解像度なのか?(その1)

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元記事:Sigma Q&A Part II: Does Foveon’s Quattro sensor really out-resolve conventional 36-megapixel chips?




フォビオン社は撮像素子を開発しているシグマの子会社だが、センサーの構造は他のメーカーのものとは全く異なっている。フォビオンのセンサーは、それぞれのピクセルが赤・緑・青の各色を同時に取り込むことができるので、ベイヤー配列のセンサーと比べて解像度に優れていると、長い間宣伝してきた。

しかし、クワトロと名付けられたフォビオンの最新のセンサーは、これまでのフォビオンセンサーとは異なる構造をしている。最上部の青の層と比べて緑と赤の層の解像度が少ない。しかし、シグマはこのセンサーが、実際の画素数よりも遥かに多い「ベイヤー換算」の解像度を持つと主張している。クワトロセンサーは最上部に1900万画素の受光部しか持たないが、これはベイヤー換算で3900万画素に相当するとしている。

これは本当に正しいのだろうか。それとも、単なるマーケティング的な「願望」にすぎないのだろうか?

今年の2月に日本の横浜で行われたCP+の会場で、私たちイメージングリソースはシグマCEOの山木和人氏、フォビオン社ジェネラルマネージャーのシリ・ラマスワミ氏、そしてソフト部門の副部長であるルディ・グトッシュ氏に話を伺うことができた。インタビューの前半は主に山木氏との会話だったが、この後半ではクワトロセンサーが技術的にどのように機能しているのかについてと、その解像度がどれくらいなのかについて集中して質問した。



山木和人CEO、シリ・ラマスワミ、ルディ・グトッシュの各氏


技術的背景:フォビオンX3センサーと通常のセンサーの違い

インタビューに進む前にフォビオンセンサーの構造と、他のセンサーとの違いについて確認しておいたほうが良いだろう。もちろんここで解説する内容も全てではないので、もっと詳細が知りたい人はフォビオン社の解説ページウィキペディアを参照されたい。本当のマニアを自称するならフォビオンの学術論文を読むべきだ。

通常のセンサーは色のついたフィルターを使ってセンサーに入る光を赤・緑・青の三色に分離する。それぞれの受光部ではひとつの色しか検知できない。最も普及しているフィルターの配列方法はいわゆるベイヤーフィルターで、これは1974年にイーストマン・コダックで働いていたブライス・ベイヤー氏によって考案された。ベイヤーフィルターの配列はチェスのボードのようで、緑を感知するピクセルが青と赤の二倍あるのが特徴だ。

フォビオンX3センサーはそれぞれのピクセルで赤・緑・青の三原色を全て捉えることができる。それに対してベイヤーセンサーは一つのピクセルで一色しか検知できない。フォビオンX3センサーは、光がシリコンに浸入する時に、シリコンの深さによって到達する色が違うという特性を利用している。その結果、全てのピクセルで赤・緑・青の光の三原色を得ることが可能になる。



上の図はベイヤーセンサーとフォビオンX3センサーの比較である。構造を比較してみると、同解像度の場合、フォビオンセンサーの方がモザイクフィルターを利用したベイヤーセンサーよりも高い解像度を持つのは理にかなっているように見える。なぜなら、最終的にはベイヤーセンサーではバラバラに記録された赤・緑・青の各色を結合して各ピクセルでフルカラーの色を作らなければならないのに対し、フォビオンセンサーでは最初からフルカラーのデータを記録できているからだ。モザイクフィルターを使うと捕捉できる情報が少なくなるのは避けられない。

それでは具体的にフォビオンセンサーがベイヤーセンサーに対してどれほどの解像度を持ち、どのような特徴があるのか、という疑問は残る。フォビオン社によるこの質問に対する答えは、「フォビオンX3で撮られた画像は、同サイズの画像の場合、ベイヤーセンサーに対して二倍の解像度を持つ」というシンプルなものだ。この計算はセンサーの構造を考えれば理解しやすい。というのも、人間の視覚が持つ解像度は緑色に最も近いからだ。ベイヤーセンサーはそのピクセルの半分が緑色なので、画像サイズに対して半分の解像力しか持たないという考えは当たっているように見える。

この問題に関しては、インタビューの中でも取り上げる。その前に、新しく発表されたクワトロセンサーについて見てみよう。


フォビオン・クワトロ・テクノロジー:少ない画素数でも解像度は維持できるのか?


フォビオンX3センサーの弱点の一つは、ベイヤーセンサーと比べてノイズが多いということだ。この理由はおそらく、センサー構造そのものにノイズが発生しやすいことに起因している。各層は縦に分離しているので光子が消失しやすいし、それぞれの画素で捉えられるのは純粋な色ではなく、混ざった色なので、そのデータから正確に色を再現することが難しいのだろう。この点についてはインタビューでも触れる。

一般論として、他の条件が全て同じだったら、受光面積が大きいほうがノイズは少なくなることはよく知られている。しかし、受光面積が大きくなってしまうと解像度が低くなる。それは本当に正しいのだろうか?クワトロセンサーでは、この矛盾する二つの要素を同時に解決したように見える。高解像度で偽色がなく、それでいて大きな受光面積による低ノイズを実現したという。クワトロセンサーの構造を見てみよう。

フォビオンの新しいセンサーであるクワトロセンサーは、およそ2000万の青の画素を持っているが、緑と赤は490万画素しかない。



上の図はクワトロセンサーの構造を表したものだ。最上部の青の層は下層の緑と赤に比べて四倍の画素を持っている。フォビオン社によるとこの構造でも、色解像度を含めて、これまでの構造と同じ解像度を維持できており、なおかつ色ノイズを劇的に減少できたという。この主張はいささか大げさに聞こえるし、三層のうち二層の画素が極端に少ないので、本当にそうだとパッと見では理解し難い。

これらの点についてインタビューで尋ねてみた。以下がその内容である。




IR(Imaging Resources):私たちイメージングリソースは、クワトロセンサーについて話し合ってきたのですが、解像度をどのように考えればいいのか、なかなか結論が出ませんでした。発表によるとベイヤー換算で3900万画素相当の解像度を持っているとのことですが、青の層に対して緑と赤の層は少ない解像度しか持っていません。もちろん、通常のベイヤーセンサーでは全体の画像サイズに対して少ない輝度情報しか持っていませんが、どうやってこの3900万画素相当という数字を計算したのですか?

シリ・ラマスワミ(FOVEON):さきほどおっしゃられたように、ベイヤーであれフォビオンX3であれ、センサーの構造と実際の画像との間には大きな隔たりがあります。しかし、今回の解像度については、クワトロセンサーでもメリルセンサーと同じように単純な話です。クワトロセンサーの場合は最上部の層が輝度を測定しており、その解像度が最も高いので、それをベイヤーセンサーの輝度情報と比較しているだけです。結果としては単純にフォビオンセンサーは同サイズのベイヤーの画像の二倍の解像度を持ちます。

IR:単に二倍するだけなのですか?

FOVEON:そうです。この数字は昔から変わっていません。フォビオンの解像度はベイヤーの二倍です。

IR:その数字は実際にベイヤーで撮られた画像と比較して得られたものなのですか?

FOVEON:もちろん、実際の画像を比較しています。二倍という数字はセンサー構造から論理的に導かれるものでありますが、実際の測定でもそれが証明されています。フォビオンは全ての色を同じピクセルで補足し、高解像度な画像を作る。実際の撮影がそれを証明していますし、それは最初からずっと変わっていません。

IR:つまり、それは裏付けのある数字なのですね。理論的に予測できるものが実際の撮影で裏付けられ、正しいと証明されている。

FOVEON:はい、実際の測定で、私たちの計算が間違っていないことを確認しています。

IR:ベイヤーセンサーでは、私たちの視覚が緑に一番敏感であるという特性を利用して輝度情報を得ていますが、実際の緑色のピクセルは、画素数に比べて半分しかありません。例えば2000万画素のセンサーだったら、緑色の1000万画素しか輝度情報がないことになります。しかし、実際は赤や青の画素からもある程度の輝度情報を得ているのではないですか?

FOVEON:そうです。もちろん、輝度情報は単純に緑だけからなるのではありません。しかし、現実にはベイヤーセンサーの緑のフィルターは人間の視覚ととても似通った働きをしているので、輝度情報の大半はやはり緑から来ています。青と赤から得られる輝度情報は極わずかで、解像度に与える影響はほとんどないんです。

また、解像度がどれくらい得られるかは被写体によって大きく変わります。理論的に得られる最大の解像度を実際に撮ることはほとんど不可能です。例えばご存知のように、いくつかのケースではモアレが発生て解像度が落ちます。ベイヤーではセンサーで全ての色が等しく処理されるわけではないので、モアレが発生してしまいます。このような状況ではほとんどの情報が使い物になりませんから、解像度も何もあったものではありません。高解像度はそれよりも、なめらかな階調に寄与することの方が実際は多いのです。

IR:なるほど、面白いですね。テスト画像を撮影する時に、私が作った小さな花飾りを使うんですが、黒地に赤、緑、青を重ねたものや、緑地に赤や青を重ねたものを撮影します。そうすると面白いことにものすごく大きな違いが出るんですよ。黒地に緑色が最も解像度が高く、画面中央では理論値に近い解像度を出せます。しかし、とりわけ青地に赤の組み合わせはものすごくぼやけます。しかし、フォビオンではどの組み合わせを撮影しても全く同じなのです。

FOVEON:はい、それは実際私たちもチェックしていることです。全ての色に対して均一な解像度を持っているのがフォビオンです。

IR:以前シグマの本社を訪問した時社長と話をしたのですが、最上層は青の情報をすべて持ってるから便宜上「青色」を担当していると説明していますが、実際は他の色も吸収していますよね。なので、一番上は青と言うよりは輝度情報に近いと。これについてもう少し説明をいただけますか。もちろん、今話した内容以上のことは言えないのかもしれませんが、解像度を得るためにどうやって輝度情報を取っているのか、説明をお願いします。

山木:分光特性の図があったのでそれを見ながら話しましょうか。

IR:それは助かります。




FOVEON:では始めましょう。先ほども話したように、フォビオンは人間の視覚、とりわけ網膜が光に反応するあり方にとても似通っています。人間の視覚はとても幅広い色に反応して情報を得ているのですが、フォビオンもそれと同じで、三つの層それぞれが全ての色と輝度情報を得ています。それなので、問題になるのは、いったいどのようにすれば最も簡単に色と輝度の情報を取り出せるのか?ということです。また、どのやり方が、最もノイズが少なくデータを得られるのかと。

IR:なるほど。そしてもちろん、最下層の赤を担当する画素ではほとんどわずかの青しか得られないのですね。

FOVEON:たくさんはないですね。

IR:けれども、わずかに混ざっている。

FOVEON:はい、いくらかは残っています。そして緑はもっとたくさん最下層に残っています。

IR:なるほど。

FOVEON:当然ですが、この方法にはいくつか弱点があります。例えばフォビオンが高感度に弱いということは、多くの人が既に知っていると思いますが、現在のベイヤーセンサーと同じようにはできません。

IR:色を取り出すのに各層のデータの差を計算しなければいけないので、もしノイズが混入したらその数字が大きくなってしまうのですね。

FOVEON:そうです。フォビオンは各色を引き算で求めていきます。しかし、この方式にも長所があって、それは各層のデータを組み合わせることができるということです。もし各ピクセルで一色しか測定できなかったら、そのデータを組み合わせることはできません。データを組み合わせることで、フォビオンはノイズの少ない、とてもきれいな絵を作ることができるのです。








山木社長Q&A Part2:フォビオン・クワトロセンサーは本当に3600万画素以上の解像度なのか?(その2)

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IR:でも、クワトロセンサーは違いますよね。下層の緑と赤は解像度が低いです。受光面積が広くなるのでノイズが減るというのはわかるんですが、どうやって少ない画素数から輝度と色の情報を得ているのか、もう少し説明してもらえますか?

FOVEON:これまでは上から順に赤・緑・青の画素があると説明してきました。しかし、これは事実ではありません。どの画素も、得られる情報は純粋な色ではないのです。しかし、計算によって詳細な情報を得ることが可能になります。他の層との違いを計算することで、一つのピクセルの輝度と色の情報が得られます。これがフォビオンの特徴です。分光特性では、青い曲線が最上部、緑の曲線が中間、赤い曲線が最下層のそれぞれの画素が反応できる光をあらわしています。これで各層の働きがどのようなものなのか、わかると思います。



フォビオンセンサーでは、どれくらいの深さまでシリコンに浸入するかによって、光を三つに分離します。これまではこの三つを青・緑・赤と呼んでいましたが、図を見ていただければわかるように、全ての層が多かれ少なかれ全ての色に反応しているのがわかると思います。この特性がクワトロセンサーを作る上での鍵でした。

最上部の青層で得られる色は、純粋な青ではなく「青っぽい」色です。同様に中間では緑っぽい、最下層では赤っぽい色が得られます。どれも純色ではありません。このフォビオンセンサーの特性のおかげで、情報を損なわずに実際のデータ量を減らすことができます。全ての層の色が混ざった色だということは、逆に言えば最上部のデータから下層の色のデータが復元できるということです。これはなかなかパッと理解し難いことかもしれませんが、この方法でとてもきれいな絵を作ることができました。

IR:なるほど。全ての層が全ての色の情報を持っているので、それを関連付けることができるのですね。最上層のデータから各ピクセルに赤がどのくらい入っているかわかるので、最下層の赤の割合を逆算して求めることができると。

FOVEON:その通りです。この計算はプログラムで自動的にできるんです。また、このことで、実際必要ではなかった情報を得る必要もなくなります。下層の画素をまとめることで受光面積を広げることができ、結果的にノイズの量も減らすことが可能になりました。

IR:とても面白い考えですね。不必要に大きかったデータを減らすことで処理を高速にし、さらにノイズも減らすことができたと。

FOVEON:この計算を行うには分光特性の情報がとても大事になります。フォビオンは単なる三層構造のセンサーというだけではなく、それぞれの層が幅広い情報を含んでいるんです。

IR:つまり、最上層に青のフィルターを置いているというような単純な話ではないと。

FOVEON:もし各層が純色しか捕捉できなかったら、他の色の情報に関連付けられないので、このセンサーは成立していません。

IR:とても面白いですね。ただ、やはりこの構造に何らかの弊害があるのではないかと思うのですが。全てがうまくいくというのは、にわかに信じがたいです。緑と赤の解像度が低いということはないのでしょうか?フォビオンで偽色が発生することはあまり考えにくいのですが、最終的にどうなったのかが気になります。

FOVEON:これも山木社長が使うプレゼンの資料なのですが、片方が3600万画素のベイヤーの画像で、もう一つがクワトロのものです。



これはベイヤー3600万画素と、クワトロセンサーの解像度のテスト画像です。左がベイヤーで右がクワトロですね。どちらもローパスフィルターは付けていません。なので、ローパスなし同士で比較しやすいと思います。画像を見てもらえればわかるのですが、クワトロセンサーは3600万画素のベイヤーを解像度でしのいでいます。

IR:おお、素晴らしいですね。

FOVEON:クワトロの画像はとても綺麗です。これまでのフォビオンと同じ滑らかで高精細な画像を、クワトロでも作ることが出来ました。

IR:けれども、このチャートはモノクロ画像ですよね。

FOVEON:これはカラー画像です。モノクロじゃありません。

IR:ああ、なるほど、カラー画像ですか。被写体がモノクロなんですね。

FOVEON:そうです。被写体がモノクロなので、画像をカラーで生成した時、その違いが明白になります。

IR:確かにベイヤーでは偽色が出ています。でもクワトロでは一切偽色は発生していませんね。

FOVEON:もちろん、クワトロでも限界近くで偽解像は出ています。これは避けられません。

IR:偽解像が出るのはしかたないです。でも偽色は出ていない。

FOVEON:この結果は、私たちが計算した通りのものです。さらにクワトロとメリルセンサーとの比較もあります。これです。



これは左側がメリルセンサーで、右側がクワトロセンサーの解像度を比較したものです。解像度の数字はフォビオンによるものです。

IR:興味深いです。

FOVEON:最初は理解しづらかったかもしれませんが、この説明でわかってもらえたと思います。クワトロセンサーは間違いなく3900万画素相当の解像度を持ちます。

IR:そうですね。しかもクワトロセンサーには偽色は発生していない。これはきちんと色と解像度が分離されている証拠ですね。

FOVEON:フォビオンに偽色は出ません。

IR:緑と赤の層を大きくすることでノイズ性能が改善されるとのことですが、具体的にクワトロセンサーはどれくらい高感度性能が向上しているのですか?

山木:おおよそ一段分です。

IR:一段ですか?

山木:もちろん、被写体にもよりますが。

IR:そうですね。

山木:平均して一段ということです。

IR:クワトロでは実際の画像サイズが大きくなり、おそらく色や輝度の情報を得るための内部のデータ処理も複雑になっていると思うのですが、クワトロの連写速度はメリルと同じくらいの秒速2コマから3コマくらいになるのですか?。



山木:今回は新しい画像処理プロセッサーを使っています。

IR:つまりもっと性能の良いプロセッサーなのですね。確か三つのプロセッサーと四つのアナログフロントエンドを搭載しているとか。

FOVEON:ああ、TRUE IIIはバージョンの名前なので、三つあるわけではありません。プロセッサーは一つでアナログフロントエンドは四つです。

IR:一つですか。でもより高性能なのですね。

さて、とりあえずこれで聞きたいことは全部聞きました。図やグラフはとても参考になりました。実際にdp2 Quattroを手にするのがとても楽しみです。私たちの研究室にはD800Eもありますから、dp2 Quattroを手に入れたら私たちの設備でテストしたいと思います。長い時間ありがとうございました。






フォビオン現像テクニック(第十九回)フリンジ除去設定でアートレンズの雰囲気を味わう!

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SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 EX DC HSM

やあやあ皆さんこんにちは

最近のシグマはクワトロが発表になったりアートレンズの性能がすごかったり、いろいろワクワクすることが多いですね!

特に最新の50mm F1.4 Artは40万円もするカール・ツァイスのOtusにも匹敵する性能で、それが何と4分の1の10万円で買える!ということで、「安い!」「予約した!」「買った!」という報告がネットで相次いでいる模様です。

シグマSAマウントはまだ発売してないので、僕も早速予約した!と言いたいところなんですが、そこはそれ、家族持ちの底辺リーマンの給料じゃ10万円なんかおいそれと出せません。しかも僕旧型の50mm F1.4 EX DG持ってますからね!

同じ焦点距離と明るさのレンズ持っててさらに10万円のレンズ買うなんて、家族をどうやって説得すればいいんですか!

無理無理無理ということで、おそらく新型は指を加えて眺めてるだけになると思います。

しかしそうは言ってもアートレンズは欲しい。(ちなみに僕グローバルビジョンのレンズ一本も持ってません(笑)と言うかそもそも結婚してからレンズ一本も買ってな)欲しいけど買うあても余裕もない。ないけどその描写は手に入れたい!

ということで、パンが無ければケーキ、じゃありませんがレンズがなければ現像でどうにかすりゃいいんですよ!

幸いなことに、フォビオンのRAWは現像次第で化ける(というかデフォだとそもそも使いものにならない)し、最近はSPPの機能もだいぶ増えてきたので、アレコレ使ってアートレンズの雰囲気だけでも楽しみましょう!


ということで今回のレンズは2005年発売の30mm F1.4 EX DC HSMです。

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まだまだ現役


さて、この発売から10年も経とうかという30mm F1.4(旧)ですが、これけっこう良いレンズで、実は中央の解像力はDP2 Merrill並なんですよ(笑)。周辺は絞っても怪しいし、歪曲出るし、そもそも真ん中以外のピントは合わない事が多いんですが、被写体真ん中に持ってきて開放でボケさすといい仕事します。中古で3万円くらいで売ってたら手に入れるのをオススメします。

ということで、けっこう癖のあるレンズなんですが、ビシッとハマればいい仕事するレンズということで、アレですね、シグマのカメラみたいなレンズですね!(笑)

ところが今話題のアートレンズは、どうも聞くところによると優等生的なレンズのようです。画面全体にわたって解像力が高いのはもちろんなんですが、特に山木社長が言っていたのが「軸上色収差が少ない」、ということ。実際社長のプレゼンでもそのことを力説してました。

2年前のフォトキナの山木社長のプレゼン

軸上色収差というのが何なのか実はあんまよくわかってないのですが(笑)、何となくボケの前後に出るピンクとか緑のアレのことなんじゃないかなということで、ネットにある説明読むと、やっぱそんな感じですね。アートレンズではそれが出ないと。素晴らしい!じゃあ普通のレンズはどうなの?ということで、今回の作例。


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おお、なんか出てる!


とりあえずオートで開いただけなんですが、なんか緑っぽいのとかピンクっぽいのが出てますねえ。こんなのレンズの味だと思って気にしなきゃどうってことないんですが、なんか高いレンズだとこれが出ないと聞くと急に悔しくなってしまうのが人情というもの。ということで、これを消してしまおうという話です。

まずは通常の現像をします。僕は子供を撮った時は決め打ちの設定がありまして、まず「レンズプロファイル適応」「ノイズリダクション全部最大」「カラーモードポートレート」にします。

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レンズプロファイル適応

まずレンズプロファイルですね。これやると(たぶん)倍率色収差を消してくれます。シグマのレンズなので、会社が測定した正確な数値を適応してくれてるに違いないと信じて、必ず設定しています。SPP6ではこれをデフォにしておいて欲しいな!


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ノイズリダクション

次はノイズリダクション最大です。これもけっこう優秀で、特に輝度ノイズ最大にすると肌のガサガサ感が消えます。ちょっとベイヤーっぽくなっちゃうんですが、シャープな部分はぼやけないので、まあいいかなと。色ノイズは暗部の変な色が少なくなります。バンディングノイズはやってもあんま変わらない気がするんですが、ついでなのでいつも最大にしてます(笑)


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カラーモードはポートレート

最後にカラーモードをポートレートにします。これもけっこう強力な設定で、ここまでやるとかなりぺったりしてベイヤーっぽくなっちゃうんですが、まあ子供の肌なので、つるっとしててもいいかなと。


ここまでやって基本的な絵を決めたあとで画像補正します。

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画像補正はこんな感じ

ほとんどいじってないんですが、露出ちょっと高めにしつつハイライト下げて飛んでる部分を減らしてます。あと、アートレンズは解像度が高いらしいので、むしゃくしゃしてシャープネスを最大にしときました(笑)。今までの設定でかなりぺたっとしてしまっているので、まあ別にいいかなと。


さて、ここからが今回のメインの話です。

フリンジ除去のパネルを開いてスポイトマークのアイコンをクリックします。

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そんで、おもむろに画面上の緑っぽい部分をクリックします。

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ここをクリック

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おお、消えた!

あっさり消えましたね。手前のペットボトルの蓋も同じ緑っぽい色なんですが、あんまり影響を受けていません。この機能を使えば消したい色だけ消えるので、かなり便利です。

ついでなんで、ピンクっぽいのも消しておきましょう。

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これを

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こんな風に


ピンクは消すと肌の色に影響が大きい事が多いので、全体をもう一度確認して適応した場合としなかった場合を比較して、大丈夫だったら消すようにした方がいいです。被写体によって色相範囲と適応量をアレコレ調節しましょう。

これでいいかな


ちょっと肌の赤みが消えて微妙に血色が悪くなってしまったんですが、これはこれで背景に合ったちょっと落ち着いた雰囲気になったんで、まあいいやということで、これで保存しました。


どうでしたか?これで何となくアートレンズで撮ったっぽい、収差のない、シャープな画像ができた気がします(笑)。

ということで、SPPの機能を使えばかなり収差は消すことができます。実際は指定した色を画面から全部消してしまうので、画面上に同じ色の被写体があればその色も消えてしまい、この方法も万能ではありません。高いレンズにはやっぱりそれなりの理由があるもんですねえ。

でも、今ある機材を最大限使って、良い結果が出せるならそれに越したことはないので、色々工夫して見る価値はあると思います。ということで皆さんも色々工夫してみてください。


ああ、でもやっぱアートレンズ欲しいなあ!!


ではまた!




フォトキナ2014 山木社長インタビュー

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フォトキナ2014の会場で、私たちDigital FocusはシグマCEOの山木和人氏にインタビューを行うことができた。新製品のカメラやレンズについてと、シグマの将来について話を聞いた。

Digital Focus(DG):dp2 Quattroが既に発売済みで、dp1の発売も決まりました。シリーズの完結となるdp3も発売が近いのではないかと感じます。レンズ交換型のdpというのはカメラメーカーとしても魅力的な商品だと思うのですが、発売の予定はないのでしょうか?

山木:マーケットの動向は常に注目しています。しかし、私たちにはレンズ交換式のSDシリーズがあります。もし新しいマウントを発表すれば、私たちは二つの交換レンズのラインを持つことになります。新しいラインを作れば、そこでも新しいユーザーに対する責任が発生しますから、それにふさわしいレンズを揃えなければなりません。しかし、私たちの開発リソースは限られていますし、中途半端なものを出してユーザーを失望させる事はできません。技術的にラインを二つ持つことは可能ですが、現在の優先順位は既存のラインを充実させることです。レンズ交換式のSDと固定式のdpシリーズを今後も発展させていきます。

DG:ここ数年でシグマは数々の優れたレンズを発売してきました。例えば50mm F1.4, 35mm F1.4, 18-35mm F1.8などです。しかし、多くのプロ写真家はフルサイズ用の24-70mmや70-200mmなどが、リニューアルされることを望んでいます。これらのレンズのリニューアルの予定はあるのでしょうか?

山木:ここで具体的に答えることはできません。しかし、リニューアルする必要性はあると感じています。

DG:レンズ開発において一番難しいことは何でしょうか?

山木:写真家の需要に合うレンズを作ることです。コンパクトで軽量のレンズが欲しい人もいれば、動画を撮る人もいます。最新の高解像度なセンサーにも対応しないといけません。そのためにはとても高性能なレンズを作る必要があります。私たちは50mmや24-70mmといった「基本的な」レンズを作らなければなりません。しかし、それと同時にユーザーを驚かせるような製品を作りたいとも思っています。

シグマとしては画質を向上させることを第一に考えています。もちろん、手ブレ補正技術の向上やAF速度の改善なども必要です。そのような様々な要因を考えて、製品のバランスを取っていくのが一番大変ですね。



DG:ソニーのα7用のレンズについて予定はありますか?

山木:ありません。今のところ開発予定はないですね。

DG:シグマはミラーレス用に僅かなレンズしか販売していません。ユーザーからの反応はどうなのでしょうか?

山木:各国のマーケット事情にもよりますね。日本では、私たちのミラーレス用のレンズは、性能が高いこともあって好評です。ヨーロッパでは事情が少し違います。ミラーレスを所有しているユーザーの多くは初心者なので、私たちのレンズもそのユーザーに合わせた値段にしないといけません。現在はソニーや富士フィルムが性能の高いミラーレスを発売していますので、これに対応したレンズを作る必要があるとは考えています。

DG:新しいdp Quattroシリーズのデザインはとても独特です。ユーザーからの反応はどうなのでしょうか?また、新しく発表になったLCDビューファインダーは、まさに唯一無二といって良いと思います。他のメーカーはどちらかと言うとレトロなデザインに回顧しているように感じられるのですが、シグマは新しいデザインに向かっています。

山木:クワトロは他のカメラとは違います。dpは最高の画質を提供することが目的ですが、カメラそれ自体を素晴らしいものにしたかったのです。筐体のデザインにとりかかっていた時、私は開発チームに既存のものとは全く違う方法で作るように指示を出しました。車で言うと、dpはトヨタというよりはアルファロメオやロータスに近い考えで作られています。もちろん、私自身50年代から60年代のレトロなデザインは好きです。当時の製品はとても美しいデザインですし、優れた性能のものもいくつもありました。しかし、製造する立場からすると、話はもっと複雑になります。それらのデザインをコピーしても、ほとんどの場合より質の悪いものが出来るだけです。私たちは常に新しいものを作っていかなくてはいけません。

DG:新しいSDシリーズでは、何か画期的な変化が起こるのでしょうか?

山木:SDシリーズのマーケットはニッチです。しかし、SDシリーズのユーザーはとても熱心にシグマをサポートしてくれているので、私たちはその期待に応えなければなりません。SDシリーズの後継機は必ず発売しますが、今の時点ではデザインや性能などの詳細を話す段階ではありません。




シグマ ― 最高の画像を手に入れるために(その1)

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元記事:SIGMA - ONE MAN’S QUEST TO ATTAIN THE PERFECT IMAGE


シグマとはどんな会社か


かつて日本には光学産業のブームが起こっていた。その最中の1961年、山木道広はレンズメーカーを設立した。当時彼は27歳だった。

わずか数年の光学メーカーでの勤務経験を頼りに、彼は財産を投げ打ってリアコンバーターを設計・製造する会社に全てを賭けた。シグマが誕生した瞬間だった。

先進的な設計思想、高い光学設計の能力、そして強固な決断力を背景に、山木道広は後に写真産業の中でも最も賞賛されることとなる彼のキャリアをスタートさせた。



それから52年の時が経った。シグマは現在7カ国に支社を置き、全ての大陸に配送センターを持つ、世界最大の交換レンズ製造会社となった。シグマは全世界で2000人以上の従業員を抱えているが、会社そのものは山木家による同族経営のままである。2012年の山木道広の死去はカメラ産業全体にとっても大きな衝撃だったが、彼の資産は息子の和人に受け継がれている。

山木道広は生前、和人と協力してシグマという会社そのものを変化させる計画を練っていた。シグマはかつて安価な交換レンズメーカーとして有名だった。しかし、カメラの性能は向上を続け、要求されるレンズ性能も上がり続けている。シグマは限られた予算と経験の中で、最高の性能のカメラとレンズを作るメーカーへと変貌を遂げようとしていた。

この一年に発売された数々の革新的で高品質な製品を見ると、山木和人はシグマのユーザーに世界最高の製品を提供するという、シグマの伝統をしっかりと受け継いでいるようである。


2.5倍リアコンバーターレンズ

カメラ産業の歴史の中で最も革新的な発明の一つと考えられている。リアコンバーターレンズは写真愛好家の必需品として、そのバッグの中に常備されており、全世界で数百万個も売れた。




シグマという会社


シグマは1961年に設立された。当時の東京には何十もの大きな光学機器メーカーがあり、その中にはニコンやキヤノン、旭光学などもあった。シグマはそれらのメーカーの近くにオフィスを構えたが、当時の東京では熟練の技術者は既に他のメーカーに雇われていた。道広は東京の外で技術者を探そうと決めた。

そんな中、とある技術者が彼の生まれ故郷である会津の人々のことを道広に話した。会津の人たちは粘り強さと細かな作業に秀でていることで有名だという。さっそく会津に視察に向かったが、それは実りの多いものだった。技術者の語った会津の人たちの特質はその通りで、地元の人達も、地域に工場を作るよう道広を説得した。地酒が盛大に振る舞われる中で行われた交渉だったので、道広は詳細をわからなかったが、ともかく道広は工場を作ることに同意した。次の朝起きてみると、前の晩の交渉はただの冗談ではなかったことに気づいたので、道広は自分の言葉に責任を持たなければならなかった。地域のある家の部屋を間借りして、作業員を一人雇い、旋盤を購入して部屋に設置した。シグマの会津工場の始まりは、この小さな部屋からだった。




会津の人たちが精密な作業に向いていることに、道広が気づくのに時間はさほどかからなかった。1973年にシグマは会津に正式に工場を建設することを決断する。現在では会津工場は最新のハイテク工場として知られている。その大きさは4500平方メートルを超え、中央に情報管理システムと、垂直統合された生産ラインを持ち、それにより複数の生産ラインを同時に効率的に動かすことが可能になっている。シグマの製品は全て日本の会津工場で生産されており、わずかな部品以外は、全て自社で設計・製造を行っている。作業効率が高いので現場でも意思決定ができる。また、情報を共有することで、革新的な設計が可能になり、生産効率や生産量、さらに品質が向上している。

レンズの品質管理はA1と呼ばれるシグマ独自の検査装置によって行われている。このシステムはシグマのフォビオンセンサーを使うことで、これまでの装置では検出不可能だった高周波の画像を検査できる。グローバルビジョンのレンズは全て、このA1による厳格な検査を通過しているので、設計上の理論値に近い性能を実際の製品でも発揮できている。



シグマの創立者


山木道広は1934年に生まれた。彼は決して裕福な家の生まれではなかった。1956年に大学を卒業する前からすでに、家族を支えるために複数の光学メーカーで働いていた。彼は大学を卒業するとすぐに、とある光学メーカーで働き始めたが、それまでの勤務経験もあって、すぐに会社内で頭角を現した。しかし数年後にその会社は倒産してしまい、道広はかつての取引先へのコンサルタントとして働き始めた。設計に関する斬新なアイデアをいくつか取引先に紹介すると、彼らは道広に会社を設立して製品化するよう頼むようになった。結果としてそれが1961年にシグマ研究所の設立につながった。




シグマは設立当初から、それまでのカメラ産業の製品にはなかった、新しい製品を市場に投入していった。その中の一つ、世界初のリアコンバーターレンズによって、シグマは世界から注目を浴びる企業となった。そのシグマの発明によって、カメラ業界全体が変わってしまったのだ。

道広はそれまでの蓄えの全てを、リアコンバーターレンズの開発に賭けた。これは元々、彼が別の光学メーカーで勤務していた時に思いついたものだった。それまではテレコンバーターレンズはレンズの前面に取り付けるものしかなかった。写真家はレンズの前玉のサイズに応じて、複数のコンバーターレンズを持ち歩かなければならなかった。しかし、リアコンバーターレンズはレンズとカメラボディの間に装着するので、どのサイズのレンズにも取り付けることができる。リアコンバーターレンズは当時よりも遥かに高性能になっているが、今でも世界中の写真家によって愛用されている。




山木道広がカメラ産業に残した功績はこれだけではない。リアコンバーターのあと、彼はYS:ヤマキシステムという名のシステムを考案した。これは一つのレンズを複数のマウントのボディで使うことができるシステムだった。彼はさらに、世界初のマクロズームレンズ、インナーフォーカスの望遠レンズ、連続フォーカスのマクロズームレンズなどを次々と発売していった。

山木道広は写真産業の先駆者であり、優れたビジネスマンだった。彼の写真に対する生涯に渡る貢献は多くの人に認められてきた。彼は亡くなるまでに世界中で様々な賞を受賞してきた。1994PMA殿堂入り、1998年国連IPCリーダーシップ賞、2008年国連IPC殿堂入り、2011年ゴールデンフォトキナピン受賞などである。また2013年にはPMDAが功労賞を追叙した。授賞式で道広の代わりに賞を受け取った山木和人は次のようにコメントした。

「父の写真への情熱を間近で見ることができたのは、私にとっても幸運なことでした。毎日のように彼の努力とその成果に刺激を受けてきました。父はこの賞を受けることができてとても喜んでいることと思います。シグマのカメラ、レンズ、アクセサリーを作り続けることで、写真の世界を広げていくという父の目標を、私も追い続けたいと思います」





シグマ ― 最高の画像を手に入れるために(その2)

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シグマの新しい未来


先日私はシグマのCEO山木和人にインタビューする機会に恵まれた。私は父親の後を継ぐということが彼にとってどのような意味を持つのか、そしてシグマというブランドを成長させていくために、どのような計画を持っているのか、話を聞いた。

「子供の頃はシグマ本社の最上階にいつもいた事を覚えています」と和人は言う。「会社はいつも私の人生の一部でした。小さな頃から私が会社を継ぐことになると聞かされてきたので、それは自然なことでした。私はそのことに重圧を感じていました。とても大きな重圧です。けれども、それをやらなければならないということも、私はわかっていました」

上智大学の修士課程を卒業し、25歳の時に和人はシグマに入社した。彼は設計室の中央にある道広の机の隣に座り、シグマでの仕事を開始した。和人によると道広の机は彼が最後に出勤した日のままで、今もフロアにあるそうだ。

「理由はわからないのですが、机がそのままだと気分が落ち着くんです」と和人は言う。「彼は私の父であると同時に師でもありました。彼の仕事に対する情熱を私生活で、職場で間近に見ることができたのはとても幸運なことだったと思います。彼から多くのことを学びましたし、その献身と功績に常に感化されてきました」




少年時代に会津工場でかくれんぼ遊びをしていた和人も現在では45歳になった。彼はシグマの未来をどうするのか、その方向を探っている。

「新製品の開発には必ず技術革新による後押しがあります。私たちが目指していることは、ユーザーに特別で高性能な製品を提供していくことです。そのために、製品の品質向上には常に取り組んでいます」

近年発売されたシグマの製品はどれも、高度な職人技と斬新な設計の両方を備えるものばかりだった。和人は品質こそがシグマの生命線であり、会社の将来を左右する要素だと考えている。高品質路線を推し進めることで、ユーザーとの間に信頼関係を構築でき、それがさらに革新的な製品を生み出す糧となる。2012年のフォトキナで和人はグローバルビジョンの発表を行った。彼は言う。

「私たちは新しい方向に進もうとしています。グローバルビジョンによって、写真家がレンズを選ぶことが用意になりました。また、一眼レフのポテンシャルを最大限に発揮できるようになります。レンズの選択が容易になっただけではなく、これまでよりも簡単に機材の操作や調整ができるようになりました。また、これまでよりも高品質の製品を製造できるようになったので、ユーザーの高い欲求に応えることが可能になりました」





グローバルビジョンのレンズは3つのラインからなる。アート・スポーツ・コンテンポラリー。シグマのレンズはこの三つのラインのどれかに分類されるので、自分が使っているレンズがどのようなコンセプトなのか、そしてある写真を撮るのにどのラインが向いているのか、すぐに分かるようになっている。グローバルビジョンのレンズには、世界初のF1.8ズームである18-35mmF1.8、鏡筒を新しく作りなおした120-300mmF2.8、そして、キヤノンやニコン、ソニーのライバルを凌ぐ性能を持つ35mmF1.4などがある。また、USBドックとSIGMAOptimization Proを使うことでカメラとレンズを接続し、ピント調整や設定の変更ができるようになった。これは画期的な商品だ。

また、グローバルビジョンのレンズはマウント交換サービスが利用できる。これによって、システムを変更したとしても自分が使っているレンズをそのまま他のマウントで使い続けることができるのだ。グローバルビジョンのレンズはさらに拡充を続けており、ミラーレス用にDNシリーズも発売されている。さらに追加情報として、グローバルビジョンのレンズは全て4年間の補償が付いている。これもシグマがすべての製品にきちんと責任をもつという姿勢の現れだろう。



18-35mm F1.8 DC HSM Art

シグマのグローバルビジョンレンズの一つ。このレンズはAPS-Cサイズのセンサー専用だ。世界初のF1.8ズームレンズであり、世界中の批評家からこれまで作られたレンズの中で最高のものの一つと評価されている。



インタビューも終わりに近づき、それまでに聞いた多くの話を整理しきれずに、考えがまとめられないでいた。それでも、最後に一つだけどうしても尋ねておきたかった質問があった。シグマの製品や革新的な技術について多く質問してきたが、一度もシネカメラについて話をしていなかったのだ。シグマの保つ技術を使用すれば、ハイエンドなデジタルビデオカメラ用のレンズが作れるのではないだろうか?動画撮影が要求する水準は高いので、シグマにとっても有力なマーケットになりうるのではないだろうか?私がこの質問を投げかけると、和人はゆっくりと微笑み、多くのジャーナリストがほぞを噛む、例の言葉を口に出した。

「ノーコメント」

ひょっとするとシグマには、隠された何かがまだあるのかもしれない。




シグマの終わらない物語


50年前に設立された時、シグマは日本で一番小さなレンズ製造会社だった。それから時が経ち、現在では世界最大の高品質な交換レンズメーカーであり、ニコン、ソニー、オリンパス、キヤノン、ペンタックスのそれぞれのボディに合うレンズを製造している。

フォビオンX3イメージセンサーを製造していたフォビオン社を2008年に買収すると、シグマはフラッグシップであるSD1MerrillDPMerrillシリーズなどの、特徴のあるカメラを製造してきた。RGBそれぞれに対応する素子を垂直に配置することで、フォビオンX3センサーはそれぞれのピクセルで正確な色の情報を取得できる。その結果、高解像度でありながら豊かな色彩を持ち、立体的を感じられる写真を撮ることができる。これは他の全てのメーカーが使っているCCDCMOSといったセンサーにはない、優れた技術だ。





シグマの規模と市場でのシェアは拡大を続けているが、今でも同族経営のままである。元々は協力企業を助けるために作った会社だったので、道広は会社を自分のためのものとは考えていなかった。当時の彼には、シグマが今日のような国際的に競争力のある成功した会社になるとは、夢にも思わなかっただろう。シグマ研究所という小さな会社が、カメラ業界に革新を起こすようになると想像するのは難しい。

しかし、その設立当初から、シグマは斬新で高品質の製品を、手頃な価格でユーザーに提供することを最優先事項に置いていた。CEOの山木和人と話をする中で、私は道広の遺した美しい職人技と発明の才が、正しく受け継がれていると感じずにはいられなかった。山木和人にとって、シグマはただの商売ではない。それは、深く根付いた情熱そのものだ。

別れ際に、私はカメラ産業がこの先10年でどのように変わっていくのか尋ねた。彼の返事は簡潔なものだった。

「人々の写真への愛情は変わることはないでしょう。技術的な面ではこれからも変化し続けるでしょう。しかし、写真文化そのものは、過去200年もの間続いてきたのですから、今後も変わりません。私たちはただ、写真そのものに貢献していくだけです。皆が今写真を楽しんでいるそのあり方を私たちも尊重し続ければ、シグマはこれからも新しい製品を発売し続けられるでしょう」



シグマは高級レンズでカメラマーケットをリードする(その1)

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元記事:Sigma CEO leads premium push in camera market (Q&A)


山木和人がCEOになってから、シグマは高級レンズを主な収入源にする会社に変貌を遂げた。しかし、カメラはまだビジネスとして成功しているとは言いがたい。



シグマは現在、良い方向に進んでいるようだ。

かつてのシグマは廉価な交換レンズが製品の主力だった。キヤノンやニコンといった大企業のレンズよりも性能には劣るが安価なレンズを発売してきた。しかし、今のシグマにその面影は全くない。

CEOの山木和人は現在46歳。彼は2012年の1月に現在の職に就き、同族経営で1600人の従業員を抱える会社を率いている。山木和人のCEO就任以降に発表された数々の高性能で高価なレンズ群は、シグマのイメージを高めることに成功した。

そのようなレンズの代表が35mm F1.4 DG HSM、50mm F1.4 DG HSM、そして18-35mm F1.8 DC HSMである。これらは比較的小型のレンズだが、シグマはフォトキナでもっと巨大なレンズを二本新しく発表した。高性能な150-600mm F5-6.3 GD OS HSM Sports(25万円で10月に発売予定)と、それよりもいくらか小型の150-600mm F5-6.3 GD OS HSM Contemporaryである。こちらの詳細はまだ未定だ。

CNETのスティーブン・シャンクランド記者はフォトキナの会場で山木和人にインタビューを行い、シグマの経営戦略の変化について話を聞いた。

Q:シグマの新しいレンズはどれもとても高い評価を得ています。どうしてシグマは高級レンズ路線を取っているのでしょうか?

山木:それには理由が2つあります。まずシグマは今でも同族経営の会社だということです。私は写真と社員の家族の生活に対して責任があります。私が最も優先していることは、この社員の生活を守るということです。

私たちは今でも全ての製品を日本で製造しています。1990年代の半ばに、日本円は急激に上昇しました。また、日本での製造コストはとても高くつくので、多くのカメラメーカーが中国やタイ、マレーシアなどに製造拠点を移しました。

私たちは日本での製造を続けたかったのです。しかし、低価格の製品を作っていては日本に留まることはできません。製造コストがどれだけ高くついても、高性能レンズを作るしかなかったのです。一番売れ筋の低価格帯から、中・高価格帯へと製品のラインナップを変えていく必要に迫られたのです。

Q:ここ数年は円安傾向が続いているので、日本の製造業にとっては有利な状況ではないのですか?

山木:そうですね、3年前と比べるとずいぶん良くなりました。しかし、製造コストは高いままです。けれども、通貨は理由の一つに過ぎません。ビジネスというのは単にお金と利益だけの話ではないんですよ。そこにどれだけ情熱を注げるかということが何よりも大事なのです。

私たちは写真とカメラが大好きです。なので、良い製品を作ってユーザーに喜んでいただけることが何よりの楽しみなのです。私たちのエンジニアや工場のスタッフはノウハウや経験を積み重ねているので、より性能の高い製品を作ることが可能なのです。

Q:低価格帯と高価格帯の売上比率はどのように変わったのでしょうか?

山木:10年前はおそらく売り上げの80%から90%は低価格帯の製品からなっていました。現在は売り上げの70%は高価格帯です。

15年前、私たちの市場での販売数のシェアは売り上げのシェアよりもはるかに高かったんです。私たちは他のメーカーよりも低価格の製品を多く売っていました。現在ではそれが逆転して販売数シェアよりも売上シェアの方が高くなっています。

Q:スマートフォンによって低価格帯のカメラ市場は壊滅しています。カメラメーカーは愛好家やプロ向けの製品に移行し始めています。ユーザーはスマートフォンでは撮れない写真を欲しているのでしょうか?

山木:はい、そうだと思います。デジタルカメラ市場はスマートフォンによって大きく変わろうとしています。デジタルカメラ市場は最大で年間120万台も売れた時がありました。しかし今年は30万台以下です。だいたい4分の1にまで縮小しました。

けれども、フィルムカメラ時代のことを考えてみると、その販売台数はかなり安定していて、だいたい20万台から30万台の間だったんです。これは個人的な意見ですが、おそらくこれまでは単純に売れすぎていたので、それが通常の状態に戻っただけなんだと思います。この3~4年で市場そのものがかなり縮小しました。しかし、今はある意味で安定しています。写真が好きな人の数というのはおそらくそれほど変わっていないのでしょう。単に今までがカメラ業界にとってのバブル景気だったのです。

Q:10年前、シグマにとって大事なことはキヤノンやニコンに向けてレンズを作ることでした。というのも、その二つのメーカーがカメラとレンズの市場を独占していたからです。しかし、現在では、ミラーレスの登場で状況は変わっています。フジ、ソニー、サムソン、パナソニック、オリンパス、ペンタックス、そしてキヤノンとニコンもそれぞれミラーレスカメラを発売しています。これら異なるカメラボディにレンズを供給していくことは困難なことなのでしょうか?

山木:市場に多くのカメラが溢れ、消費者の選択肢が増えるのは良いことだと思います。かつてよりもカメラ市場は豊かになっていると感じます。とても良い傾向ですね。

シグマはそれほど大きな会社ではありませんし、私たちは市場を独占しているわけでもありません。従って、全てのカメラユーザーをサポートする必要はないと考えています。私たちの使命は高性能なレンズを、真剣に写真に取り組んでいるユーザーに届けることです。

Q:最近も新しいミラーレスカメラが数多く発売されました。シグマにとっての優先事項は何でしょうか?

山木:特定のマウントにこだわる必要はないと考えています。しかし、ハイエンドなカメラ、例えばソニーα7、オリンパスOM-D、パナソニックGHシリーズ、そしてフジフィルムのXシリーズ。これらのカメラのユーザーには、私たちの製品を届けなければいけないと思います。

Q:ある一つのレンズを他のマウントで使うことに制限はあるのでしょうか?

山木:それは単純にイメージサークルの大きさですね。APS-Cサイズ用のレンズはマイクロフォーサーズにも使うことができます。

Q:実際には光学系だけの問題ではないですよね。AFや絞りの制御といった、レンズとボディを繋ぐ電子系の開発をそれぞれのメーカー用に行うのは難しくはありませんか?

山木:ソニー、オリンパスなどのフォーサーズ、そしてフジフィルムのシステムはそれぞれ全く異なっています。これを開発するには多くの情報が必要です。私たちシグマはマイクロフォーサーズに参加していますし、ソニーとも協力しています。

Q:キヤノンは規格を公開したりライセンスをしていません。

山木:キヤノンやニコン向けのレンズを作るには、そのバヨネットだけでなく、特許を使用しなければいけません。シグマは特許使用料を支払っています。もちろんそれだけではなく、常にリバースエンジニアリングを行っています。

複数のマウント向けにレンズを作ることは別の難しさがあります。例えばオートフォーカスのレンズは非常に多くの部品からなっているのですが、仮にフォーカスリングの向きを変えるとすると、レンズの配置そのものまで変更する必要が出てきます。私たちがレンズを製造するときは、まず光学系の設計から入ります。この時点で、モーターはどこに置くのか、アクチュエータはどこか、手ブレ補正はどこに配置するのか、全部決めなければいけません。レンズの設計に関することは全て最初に決まってしまうので、レイアウトを変えるということは全く同じレンズを作ることと同義なのです。





シグマは高級レンズでカメラマーケットをリードする(その2)

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(その1の続き)


Q:CADやCAEといったコンピュータの発達で、レンズ設計はどのように変わりましたか?もちろん、レンズ設計の時に、最適な配置を見つけるため多くのシミュレータを走らせていると思います。

山木:コンピュータによってレンズ設計のあり方は全く変わりました。私が入社した頃でも、設計者はパソコンにデータを入力し計算をさせていたのですが、光線の追跡を行うだけでも20分から30分はかかっていました。現在では同じ作業は30秒でできます。今のエンジニアはパソコンを使ってとても能率的に仕事ができています。

しかし、問題になってくるのはレンズは設計だけではダメだということです。レンズエレメントを研磨するのはとても難しいので、設計できても実際に製造できるかどうかが問題になってくるのです。レンズ製造業者にとって、工場の製造能力というのは依然として重要です。シグマの工場は難しいエレメントも生産できますので、シグマのレンズ設計は自由度が高いのです。シグマが世界最高だとは言いませんが、業界の中でも最高レベルにいることは確かです。

Q:150-600mmの超望遠レンズを二種類発表したのはなぜなのでしょうか?

山木:元々は一つのレンズの設計から始まったんです。現行の150-500mmの後継機はどうすべきかをまず考え始めました。まず望遠端を600mmまで伸ばしたいというのが最初に考えたことです。実際の設計を始めたのは2年前なのですが、その時私たちは3つのゴールを決めました。一つ目。最高の光学性能を達成すること。二つ目。防塵防滴を備えた最高の鏡筒を作ること。そして三つ目。軽量でコンパクトなレンズを作ることです。

しかし、実際に開発を始めてみると、この三つを同時に高いレベルで達成するのは極めて難しいことがわかりました。なので、二つ製品を作ろうと決めました。最高の画質と鏡筒をプロ向けとして作り、コンパクトで軽量なモデルを別に作ろうと。

Q:今後発売されるレンズはどのようなものになりそうでしょうか?70-200mmのように人気のあるレンズの後継機なのか、それとも他のメーカーが出していない新しい製品なのでしょうか?

山木:私たちには二つの方向性があります。一つは50mm F1.4のような歴史のあるレンズを作っていかなければいけないということ。もう一つはこれまで市場に存在していなかった斬新なレンズを作ることです。私はそういう製品を作りたいといつも思っていますし、大きなモチベーションでもあります。シグマ自身、それまでにはなかった新しいレンズを発売していくという伝統があります。例えば70年代にシグマは世界初の広角ズームレンズを発売しました。21-35mmです。私たちは常に新しいものに挑戦し続けているのです。

Q:では、今年もなにか新しいものが発売されるのでしょうか?

山木:今年発売の製品は既に発表済みです。来年もいくつか新製品を発売します。

Q:全く新しい何かですか?

山木:そうですね、来年出します。

Q:それはズームレンズですか?それとも単焦点ですか?

山木:両方です。いや、実際にはまだ開発中なんですよ。実を言うと、そもそも発売できるかどうかもわかっていません。新製品の開発というのはとてもリスクが高いのです。時には開発の途中で発売を断念しなければいけないこともあります。そういう意味で18-35mm F1.8を発売までこぎつけたのはとても幸運だったと思っています。

Q:シグマのカメラについてはどうでしょうか?独自のフォビオンセンサーを搭載していますが、あまり成功しているようには見えません。

山木:カメラメーカーになるというのは私の父の夢でした。彼のビジネスを引き継いだ以上、それは私の夢でもあります。ここでやめるわけには行きません。

もう一つ続けている理由は、デジタルカメラを作り始めてから、私たちのレンズの性能が飛躍的に向上したからです。私たちの使用しているフォビオンセンサーはとても高解像です。このセンサーの解像度についていくためには、レンズ性能も高くなければいけません。カメラとレンズを両方作ることで、大きな相乗効果があるのです。

Q:カメラ事業が会社にもたらす利益はどれほどなのでしょうか?

山木:全くありません(笑)

私たちはとても独特な会社なんです。シグマはセンサーも自分たちで作っています。これはとてもお金がかかります。通常はキヤノン、ソニー、サムソン、パナソニックといった大手企業しかセンサーを開発しません。自社でセンサー開発部門を持っている会社はそれほど多くはないんです。

Q:ビジネス的に、センサー事業は今後伸びていくのでしょうか?例えばフォビオンセンサーを他社に供給することはできるのですか?

山木:工場の生産工程を監視するモニター用のセンサーとして販売できるのではないかと考えています。現在は協力してくれる企業を探しているところですが、今のところそういう会社はないですね。

なぜかというと、もし他社がフォビオンを使おうと思ったら、その会社が自前でイメージプロセッサ―を開発する必要があるからです。センサーを販売すると、その開発に協力しなければいけなくなります。残念ながら私たちの技術者の数も限られているので、どうしても積極的に売るということは難しくなります。

Q:ニコンはD750を発表し、キヤノンも6Dがあります。フルサイズ一眼レフはコストが下がりマーケットシェアも上昇していますが、シグマはこの流れについてどう考えていますか?

山木:それについていかなくてはいけないと思っています。フルサイズを使うユーザーは増えています。シグマはそれに合うレンズを出していかなくてはなりません。

しかし、それと同時にAPS-C用レンズの開発も意識的に行っていきます。APS-Cにはいくつか利点があります。例えばフルサイズ用にレンズを作るとき、周辺まで高解像なレンズを作るのはとても難しくなります。仮に出来たとしてもサイズが大きく値段も高くなります。性能の良いレンズを作りやすいという意味では、まだまだAPS-Cにアドバンテージがあると思います。




フォトキナ2014 山木社長による150-600mm F5-6.3 DG OS HSMプレゼン

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今回新しく150-600mmを発表するにあたり、そのコンセプトと、どのような経緯で開発に至ったのか、説明させていただきたいと思います。

まず私たちが考えたのは150-500mmのリニューアルでした。そのために三つの目標を掲げました。

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一つ目は高い光学性能です。特に倍率色収差をなくすことを目指しました。

二つ目はレンズ本体の製造レベルを上げることです。また、防塵防滴は必須だと考えました。。

三つ目は軽量でコンパクトなサイズにすることです。現行の150-500mmは比較的小型なので、このサイズを維持するのを目指しました。

しかし、長い議論を重ねるにつれて、この三つをすべて高いレベルで満たすのはとても難しいことがわかりました。最終的に、このプロジェクトを二つに分けることに決めました。

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まず、高い光学性能と防塵防滴をスポーツライン用のレンズとして、そして、小型で軽量のレンズはコンテンポラリー用のレンズとして開発しようと決めました。

しかし、このように言うとコンテンポラリーレンズは画質が低く、レンズボディの作りも悪いのではないか、と思われるかもしれません。しかし、そうではありません。コンテンポラリーも既存のレンズより高い品質と性能を備えています。

これは、単に優先順位の違いなのです。スポーツラインでは光学性能と防塵防滴をサイズよりも優先しました。コンテンポラリーラインでは、何よりもサイズと軽量さを重視しましたが、それでいて画質もボディの質も高いレベルを維持しています。

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まとめると、どちらのレンズも既存のレンズより高い光学性能、高品質なボディ、そしてさらに多くの特徴を備えています。両方とも、使用していただく方には、最高の性能と、ワクワクするような体験をしていただけると確信しています。

これからこの二つのレンズの特徴を簡潔に説明させていただきたいと思います。

まずスポーツラインから始めましょう。

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スポーツラインはプロ写真家向けに設計されています。強固で耐久性が高い設計がなされています。

最初に強調しておきたいのは、もちろん優れた光学性能です。

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このレンズは2枚のFLDガラスを使用しています。FLDは蛍石と同等の光学性能を持っています。その2枚のFLDと3枚のSLDガラスを使用しています。この計5枚の特殊ガラスにより、倍率色収差を極限まで減らすことが可能になりました。まず、高画質であること、それが最初に強調しておきたいことです。

二つ目は防塵防滴構造を備えているということです。

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このイラストはスポーツラインのレンズの構造です。そして、赤い部分がゴムシールです。このレンズでは全ての接合部にシールを施し、チリや水滴がレンズ内部に浸入するのを防いでいます。

ここでこのレンズの防塵性能をどのようにテストしたのかお見せしたいと思います。



実際にこのようにして私たちは防塵性能をテストしました。

また、防滴性能もテストしています。



さて、他の特徴は、全ての焦点距離でズームロック機能を持ったことです。この機能を持つのはこのレンズが世界初です。

他の望遠レンズと同様に、このレンズも当然広角端でズームロックができます。しかし、このレンズは焦点距離が変わってもズームロックが出来るのです。180mm、250mm、300mm、400mm、500mm、そして600mmです。

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例えば撮影する時にレンズを上に向けたり、下に向けたりします。三脚に据えている時でも、焦点距離が変わって欲しくない時があります。このズームロックをすることで、焦点距離を固定することができます。

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さらに、ズームリングに少し力を入れるとこのロックを解除できます。

このようにロックして、そしてキャンセルできます。

さらに、レンズを衝撃から守るために、全面から力が加わってもロックは解除されます。


次は防水・防油コーティングです。

屋外での長時間に渡る撮影に対応するために、レンズの前玉と後玉に防水・防油コーティングを施しました。このコーティングの性能をお見せしたいと思います。

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通常のコーティングの場合は、レンズにマーカーで何かを書くことができます。

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これが防水・防油コーティングされたレンズです。

このコーティング性能はプロ写真家にとっても魅力的でしょう。


次はマニュアル・オーバーライド・スイッチです。

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このレンズのフォーカススイッチにはマニュアル・オーバーライドという設定があります。スイッチをここに設定しておけば、フォーカスリングを回すだけでAFからMFにすぐに切り替えることが可能になります。コンティニュアスAFの最中であっても、この切り替えは可能です。


次は新しい三脚座です。

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今回新しく三脚座を設計し直し、簡単に90度レンズを回転させる事ができます。これによって、手軽に横位置から縦位置へと切り替えることができます。

三脚座にはストラップ用のコネクタが付いていますから、持ち運びも容易です。


ズームの変更も容易になりました。

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通常のようにズームリングを回して焦点距離を変えれるだけではなく、レンズそのものを押したり引いたりしても簡単にズームできます。持つところはラバーコーティングされていますので、操作もしやすくなっています。

フードは金属部品にラバーコーティングされていますから、衝撃を受けた時にもフードが衝撃を吸収して、レンズを保護する事ができます。



手ブレ補正が加速度に対応しました。

新しい手ブレ補正機能は特殊な状況にも対応できるよう加速度を検知することができます。これによってモータースポーツなどの高速で動く被写体の撮影に最適化させることができるようになりました。

手ブレ補正センサーも水平、垂直の両方の動きに対応しているので、ブレの補正がより正確になりました。



AF性能の向上

超音波モーターによって、AFはとても静かで高速です。コンティニュアスAFモードでもこれまでより正確にフォーカスが可能になりました。



このレンズも様々な設定をカスタマイズ可能です。

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USBドックとSIGMA Optimazation Proを使うことで、レンズのファームウェアのアップデートや、AF速度、マニュアル・オーバーライド、フォーカスリミッター、手ブレ補正パターン、など、多くの設定を変更できます。

これらの設定はカスタムモードに登録できるので、スイッチをいれるだけですぐに使用できます。

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以上はスポーツラインのレンズの特徴ですが、コンテンポラリーラインのレンズも同じ機能をいくつか備えています。


この表がスポーツラインとコンテンポラリーラインとの違いです。

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まず、防塵防滴はスポーツラインのみです。手動でズームができるのもスポーツのみで、さらにコンテンポラリーの三脚座は通常の取り外し可能なものです。

しかし違いはこれだけです。他の特徴はコンテンポラリーラインのレンズも共通です。

発売日などの詳細はまだ未定です。



(注:今回の記事の元動画は途中で切れている部分がいくつかあったので、シグマの公式動画の内容などからプレゼンの中身を推測して一つの記事にまとめました。以下が記事の元になった動画です)




シグマCEO山木和人がレンズ設計の哲学を語る(Photokina 2014)

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私たちは先日シグマCEOの山木和人氏にインタビューする機会を得ることができた。そこで最近のシグマのヒット商品や独創的なdp Quattro、そしてレンズ設計の哲学について話を聞いた。また、シグマは日本の会津工場で全てのレンズを生産し、なおかつ株式非公開である。そのシグマのカメラ業界での立ち位置についても話を聞くことができた。

Q:35mm F1.4や50mm F1.4といったシグマのアートシリーズのレンズはその高性能と手頃な価格から、とても高い評価を受けています。特に50mmの評判はいいですね。これらのレンズを設計する上で目標に掲げたのは何だったのでしょうか?最初に価格目標を設定したのですか?

A:目標はとても単純なものです。私は技術者に「これまでのレンズの歴史の中で、最高のものを作れ」と指示しただけです。私はCEOになる前はレンズ設計部の責任者をしていました。そこで働いた経験から、単純な指示を出せば技術者は最高の仕事をしてくれるということを知りました。なので、アートシリーズのようなレンズを作るときは、設計者や技術者に「最高のものを作れ」と言うだけなんです。


シグマ 50mm F1.4
最高の画質と手頃な価格を両立したこのレンズは多くの写真愛好家から賞賛されている。


Q:シグマの50mm F1.4はとても評価が高く、ツアイスのOtus 55mm F1.4とよく比較されます。Otusのような高価なレンズに匹敵する性能を、どうやってこの価格で達成したのでしょうか?

A:良い質問ですね。それにはいくつか理由があります。まずシグマの工場には高い技術を持ったスタッフがいます。彼らは経験豊富で高度な技術を持っていますから、設計部門から上がってきた仕様や設計を拒否したりしないんです。

他の会社では製造が困難なので、現場が設計を拒否するということがあると聞きます。この50mm F1.4も工場のスタッフにとってかなり製造が難しいのですが、彼らは設計通りに作りました。これが理由の一つです。

もう一つは、シグマの会津工場は垂直統合されているので、工場内でほとんど全ての作業を行っているということです。これはつまり他の会社に余分なお金を支払わなくてもいいということでもあります。こうやってコストを削減しているのが二つ目の理由ですね。


Q:シグマは同族経営の会社で、材料や部品の調達も日本の会社が中心だと聞きました。他の会社と異なる経営をしているのはなぜなのでしょうか?

A:会社の所有者として、あるいは経営の責任者として、私が最重要視していることは経営を持続し、従業員とその家族を守ることです。これが一番大事なことです。高い売上や利益を作ることが第一ではありません。

およそ15年ほど前に日本円が高くなり、多くの日本の企業が工場を海外に移転しました。私たちにも海外移転の圧力がかかっていたのですが、従業員と家族を守るために日本に留まることを決断したのです。

日本に残るために私たちは経営方針を変えました。低価格な売れ筋商品を中心としたビジネスから、ハイエンドで高性能な商品が中心となるようにしたのです。私たちは従業員の雇用を第一に考えているので、ここが他の会社と大きく違うところですね。

シグマはレンズだけでなくカメラも作っている。dp Quattroのデザインは独特だ。


Q:シグマのdp Quattroはとても面白いカメラですね。このような奇抜なデザインになった理由は何なのでしょうか?

A:まず最初に、このカメラを安定して保持するためにどのような形状が一番なのかを、社内で集中して議論しました。クワトロはとても高い解像度を持っていますから、ほんの僅かなブレでも画面に出てしまうんです。なので一番に優先したのが、安定して保持できる形状にすることです。

けれども、このカメラは本当に特別なカメラなのです。世間的には「コンパクトデジタルカメラ」の中に分類されていますが、全くコンパクトではありません。画質は大げさに言ってしまうと中判デジタルに匹敵します。個人的な意見を言わせてもらえば、このカメラと同じようなカメラは他に一つもないのです。このカメラは他のカメラと比べても特別なものなので、デザインそれ自体がカメラの特殊性を表現しているとすると、とても面白いのではないか。私たちはそう考えました。

シグマ 50mm F1.4
フルサイズカメラで使用すると素晴らしく高解像な画像を撮ることができる。


Q:クワトロの開発にかかった期間はどれくらいなのでしょうか?

A:おおよそ2年位でしょうか。カメラの開発と同時に新しいクワトロセンサーの開発も行っていましたから時間がかかりました。センサーの開発はカリフォルニアのサンタクララにあるフォビオン社の社員が行いました。カメラとセンサーの開発を同時に行う大きなプロジェクトでした。


フォトキナ2014では、交換レンズを手持ちのボディに付けて試写できることもあって、シグマブースは盛況だった。

Q:高解像度であるということ以外にフォビオンセンサーを開発する難しさは何なのでしょうか?

A:開発の難しさは色々あるのですが、一番の問題はフォビオンセンサーを作っているのが私たちだけということですね。なので、問題はセンサーだけではなく、画像処理チップやアルゴリズムなど全てを私たちシグマとフォビオンだけでやらなければならないのです。開発には多くのエンジニアが関わっていますので、とても大変ですね。


Q:これまでのdp Quattroのユーザーからの反応はどうなのでしょうか?

A:基本的にはとても好評です。中には「何という変態カメラ!気に入った!」と言ってくれる人もいます。とりわけ私たちには、ずっとシグマのカメラを使い続けてくれているロイヤルカスタマーが僅かながらいますが、その人たちはクワトロとシグマの方向性について、とても好意的に受け取ってもらっています。ユーザーの多くに気に入って頂いていると思ってます。


シグマ18-35mm F1.8は世界初のF1.8ズームレンズ。ジャーナリズムやドキュメンタリー用のレンズとしても人気が高い。


Q:シグマのレンズで人気のあるものに18-35mm F1.8があります。これは市場で唯一のF1.8ズームです。このレンズを作るにあたって困難だったことは何ですか?

A:このプロジェクトの最初に掲げたのは「世界初のF1.8ズームを作ること」でした。どんなものでもそうですけど、「世界初」というのは作るのがとても難しいんです。参考にしたり比較したりできないですからね。開発が困難なことは最初からわかっていたので、私は技術者にこうやって指示を出しました。

「性能は気にしなくていい。これは世界初のレンズだから、開発は非常に困難になる。やって欲しいことはF1.8のズームを作ること。それだけだ」

そうやって言ったので、実を言うとこんな高性能になるなんて予想もしていなかったんですよ(笑)


シグマはカメラ業界の中でも稀な株式非公開会社。すべての製品を日本の会津工場で製造している。

設計担当のエンジニアが本当に驚くべき仕事をしてくれて、ものすごい性能のレンズになってしまいました。最初にレンズのデータを見た時は本当に驚きました。「おおっ!」って声に出してしまったくらいです。

Q:他の人も同じように感じたと思います。今まで同じスペックのレンズがなかったにも関わらず、ものすごい性能なので皆が驚いたと思います。

シグマは他にも60mm F2.8のような手頃な価格のミラーレス用のレンズを出していますね。これらのレンズはどれだけ成功しているのでしょうか?

A:今のところとても上手く行っているので嬉しいですね。

シグマの使命は高性能なレンズを手に取りやすい価格で提供することです。そのために私たちの会社組織はとてもすっきりとしたものになっています。管理部門はとても小さいですし、マーケティングや営業部門もごくわずかです。

利益のほとんどは設計部門と製造部門に投資していますから、とても高性能なレンズを手頃な価格で提供できるのです。私たちのレンズのユーザーは価格と品質の両方に満足していただけていると思っています。


シグマはコンパクトな単焦点から巨大な望遠レンズまで、ほとんどすべての種類のレンズを製造している。


Q:ミラーレスカメラのユーザーは一眼レフのユーザーと比較すると交換レンズをあまり買わないというデータを見たことがあります。この傾向に何か変化は起こっていると思いますか?

A:この1~2年で変わってきていますね。ハイエンドなミラーレスカメラがたくさん発売されていますし、このユーザーは交換レンズを多く買っています。カメラマーケットは徐々に変化していると思います。


シグマ60mm F2.8レンズはミラーレス用のレンズ。2万円以下の価格でありながら素晴らしい画像が撮れる。


Q:お話されたハイエンドなミラーレスカメラの中には例えばソニーのα7があります。シグマにFEレンズを開発する予定はあるのですか?あるいは既存のレンズをFEマウントとして発売しないのですか?

A:今後の具体的な製品について話すことはできないのですが、私たちはミラーレスカメラ用レンズのラインナップを増やしていきたいとは思っています。


Q:シグマは多くのマウント向けにレンズを製造しえいます。何か特定のマウントが他のと比べて作るのが難しいという事はあるのでしょうか?複数のマウントで使えるように設計することにどんな困難があるのでしょうか?

A:それぞれのマウントには固有の難しさがありますから、特別何か一つだけが難しいとは思いませんね。私たちはそれぞれのマウント用に最高のレンズを作るよう努力しているだけです。


Q:シグマの次の製品はどのようなものになるのでしょうか?2015年に向けてどのような製品を作っていくのですか?

A:私たちの方針は変わりません。実際、デジタルカメラのマーケットは縮小しています。けれども、私たちが写真文化を尊重し続ければ、シグマは今後も生き残っていけると信じています。

写真文化を尊重するということは、写真愛好家に向けて高性能な製品を提供していくということです。マーケットのあり方はおそらく今後も変わっていくでしょう。けれども、ユーザーの求める高品質を突き詰めていけば、シグマの製品を選んでもらえると信じています。

今後の製品について言えることはそれだけです。高い品質を追求していくこと、そして最高の製品をユーザーに届けていくよう努力し続けることです。





シグマCEO山木和人インタビュー(DSLRマガジン2014)(その1)

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(訳者注:このインタビューは英語で行われ、その後スペイン語に翻訳されたあとで公開されたものです。今回の翻訳はそのスペイン語をさらにGoogle翻訳して英語にし、それを日本語化したものになります。読みやすさを意識してなるべく前後の辻褄が合うように言葉を補っていますが、実際の発言とはかなりかけ離れたものになっている可能性があります。内容の正確性が保証できませんので参考にとどめ、引用などは控えていただくようお願いします。)
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dp2 Quattroを手にする山木和人氏


今回スペインのバルセロナで、私たちDSLRマガジンと写真家を含むグループはシグマの山木社長を囲んで会談を行うことができた。2時間以上もの長い会談になってしまったが、既存のメディアの報道にはない、新しい知見がいくつかあった。

「私たちのゴールは現代において最も特徴のある製品を開発することです。このような製品を作るのにはアナログ的な技術が必要で、そのためには経験や知識、ノウハウを持っていなければなりません。そしてそれら全ては機械を操作して得られるのではなく、人間の手から作り出されるものなのです」


山木和人氏とは、これまでにも何度となくインタビューをさせてもらっている。氏は他の同業他社の責任者とは違い、質問をはぐらかしたりすることなく、いつも穏やかだ。一言で済むような答えでも、いつも貴重な情報を与えてくれる。とても感謝している。

今回のインタビューは英語で行われたので、スペイン語に翻訳する際に正確性が失われてしまっている可能性がある。もちろん、翻訳には細心の注意をはらい、出来るだけ正しい内容を伝えるように努力した。インタビューの途中でのあまり関係性のない話題は省略したり、要約したりしている。しかし、発言された内容は出来るだけ再現するように務めた。

今回の会談に参加したのは以下のメンバーである。

山木和人 シグマCEO
Joan Altimira Reflecta社ジェネラルマネージャー
Jaume Guillen Reflecta社プロダクトマネージャー
Jordi Cohen 写真家
Valentin Sama DSLRマガジン
Iker Moran Quesabesde社


 ― 35mm F1.4と50mm F1.4がアートシリーズで発売になりました。その次に期待するのはやはり85mm F1.4なのですが、発売の予定はありますか?

山木:どのようなレンズが希望ですか?収差の少ないレンズとか。

 ― 私はスナップ写真を撮るので軽いとありがたいのですが。

山木:軽さですか?ああ、ちょっとノーコメントにさせて下さい(笑)

 ― もうちょっと質問を変えましょう。以前山木氏がおっしゃられていたことは、アートシリーズは単に高画質を追求したというだけのレンズではなく、これまでに発売されたレンズの中で最高の性能のレンズだということです。

アートシリーズとして50mm F1.4と35mm F1.4が発売されていますが、次のレンズは85mm F1.4になると多くの人が予想しています。次のアートシリーズは85mmのようないわゆるクラシックなレンズなのか、それとも、18-35mm F1.8のようなこれまでにはない全く新しいレンズになるのでしょうか?

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SIGMA 18-35mm F1.8 Art


山木:どちらも開発中です。私たちのゴールは全く新しいレンズを作ることと、クラシックなレンズを最新の技術で作りなおすこと、その両方です。

最新のカメラに古い設計のレンズをつけても残念な結果にしかなりません。昔のレンズは収差が多いことが多いですから。もちろん、中には最新のカメラに付けても通用するレンズもありますけど、私たちは常に新しい技術を使ってレンズを更新していきたいと考えています。そしてそれと同時に、今まで存在していなかったような全く新しいレンズも作っていきたい。これが私たちの目指しているところですね。

 ― 先ほど軽いレンズという話が出ましたけど、シグマはレンズ鏡筒にTSCという複合材を使っています。長い目で見て、この新しい複合材は金属やポリカーボネートといった素材と比較して、どれくらいの耐久性や安定性があるのですか?TSCはガラスと膨張率が同じという話は聞いているのですが。

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山木:膨張率はアルミニウムやガラスと同じくらいですね。TSCそのものはプラスチックです。私たちはレンズの各部品でプラスチックか金属か最適な素材を使うようにしています。例えばマウントのようにプラスチックが不適切な場所には金属部品を使用します。レンズを付けたり離したりするので、どうしても部品が摩耗してしまいますから、プラスチックのマウントは採用していません。しかし、非接触部には使っています。

 ― そうやって適切に素材を使うことで、軽くて長く使えるレンズになっているのですね。

山木:そうですね。また、プラスチックの場合は形状の自由度が高いという特徴がありますし、金属の場合はユーザーが手に持った時の感触がいいです。レンズを作るときはこのような特性を考慮に入れて最適な素材を使うようにしています。

 ― フルサイズ一眼レフで動画を撮影するユーザーが増えています。動画に特化したレンズを作る計画はあるのですか?

山木:今のところ動画に向けた製品を作る計画はありません。しかし、私たちの35mm F1.4や18-35mm F1.8、50mm F1.4、70-200mm F2.8といったレンズを使って動画を撮影しているユーザーがいるようです。現在は市場を見て、動画の需要がどれほどあるか調べているところです。

 ― シグマの18-35mm F1.8は多くの人に使われているレンズだと思うのですが、このスペックでフルサイズ用のレンズを作ることはできないのですか?

山木:18-35mmをフルサイズ用にすると、非常に重く、巨大なレンズになってしまいます。もちろん将来的にフルサイズ用のF1.8ズームが可能になるかもしれません。先ほども話しましたように、私たちはクラシックなレンズと新しいレンズの両方をより良いものにしていくつもりです。忍耐強く待っていて下さい。

 ― フルサイズ用のF1.8というのはそれほど困難なのですか?

山木:レンズがあまりにも巨大になってしまうので、製造は極めて困難でしょうね。既存のマウントでも口径が小さいマウントだと開発がさらに困難になります。例えばニコンマウント(口径44mm)はとても小さいです。もしキヤノンマウント(口径54mm)だけにレンズを作ればいいのなら、開発はもっと楽になります。ニコン用にも作るとなるとやっぱり難しいですね。

 ― ニコン用のシグマのレンズは機械部分をなくして電磁絞りを採用していますね。私たちも電磁絞りのほうが正確で信頼性があり、なおかつレンズ設計にも有利だと考えています。ニコンもいくつか電磁絞りを採用しているレンズを出していますが、未だに機械絞りを使い続けている理由は何なのでしょうか?

山木:私自身もいったいどれほどの人が機械絞りを必要としているのか不思議に思います。特に望遠レンズの場合、絞り連動レバーはとても長くなりますし、カメラ側も高い精度でレバーを動かさなければいけません。レンズによってはボディからかなり離れたところにある絞りを動かすことになりますので、特に望遠レンズではモーターを使ったほうが有利です。キヤノンや他のミラーレス、オリンパス、パナソニック、フジフィルムなどはモータ駆動です。

 ― 私の記憶ではニコンFマウントは1963年から続いています。

山木:ああ、なるほど。ニコンもTSレンズや超望遠レンズ用に他のシステムも使っていれば状況は変わっていたかもしれませんね。

 ― この件に関して質問なのですが、電磁絞りのレンズの方が複数のマウントに向けてレンズを作る時に開発しやすいのでしょうか?

山木:もし全てのカメラメーカーが電磁絞りを採用したら、レンズの開発はもっと楽になりますね。絞り連動レバーの位置がマウントごとに違うので、ニコン用とペンタックス用にそれぞれ専用のシステムを開発しなくてはいけません。マウントごとの構造の違いはかなり大きいのです。もし全てのメーカーが電磁絞りを採用したら、私たちの開発はもっと簡単になります。例えばシグマにはそれぞれのマウント用のシステムを開発するための専用のエンジニアが大勢います。もし絞りが共通なら、そういう人員も必要なくなります。

 ― シグマはマウント交換サービスを始めましたね。どのマウントの交換が人気なのか興味深いところです。値段も約1万円から2万円くらいになっていますね。

山木:実際の作業ではかなり多くの部品を交換しています。再組み立て後は最高の性能を発揮できるように入念に検査をし、その後ユーザーに発送をしています。

 ― キヤノンマウントからシグママウントへの交換はニコンやペンタックスへの交換よりは簡単そうです。

山木:それぞれのマウントに特徴がありますから一概には言えませんね。

 ― 私のようにスナップ写真を撮っている写真家からすると、ミラーレスカメラは軽量で扱いやすいので広く受け入れられています。シグマはミラーレスカメラにどのように対応していくのでしょうか?

山木:私個人としてもミラーレスの市場は今後も伸びていくと考えています。具体的にどのようにと言うことはできないのですが、現在発売しているミラーレス用のレンズだけでなく、もっと多くのシステム用にレンズを作っていきたいと考えています。ラインナップも豊富にしたいですね。

 ― アートシリーズの50mm F1.4よりももっと軽量な50mmの開発予定はないのですか?、例えばキヤノンの50mm F1.4はサイズと画質のバランスが取れてていいと思うのですが。

山木:そうですね。キヤノンやニコンの50mmの設計はとても実用的で古典的ですが、性能は最新のレンズに見劣りします。しかし、ユーザーにとっては選択肢が増えたことになります。シグマは最高の性能を目指してレンズを作っていますので、設計やサイズも異なっています。将来的には多少画質を犠牲にした50mm F1.4をコンテンポラリーラインでも出すことができるかもしれません。今のところ具体的な計画はないですけれども。

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 ― ソニーはα7、7R、7Sというフルサイズミラーレスを出していますが、システムとしてまだ完成されてるとは言いがたいです。とりわけAFレンズが揃っていません。

一方シグマは多くのマウント用にたくさんレンズを作ってきた経験があります。シグマとソニーが協力してレンズを作っていくということは可能なのでしょうか?

山木:そうですね、多くのユーザーからソニーαのFEレンズを作って欲しいと言われています。しかし、今の時点ではもう少し研究が必要です。これは先程のマウントの口径の話にも関連するのですが、ニコンマウントはフルサイズ用のレンズを作るには少し口径が小さいのです。ご存知のように、ソニーはとても高品質なレンズを作ることの出来る会社ですし、シグマも最高品質のレンズを作るのを目標にしています。しかしあのマウント口径では・・・

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 ― どうしてソニーはあのサイズにしたんでしょうね?

山木:わかりません。開発の経緯を考えると、元々はAPS-C用に設計されたものだと思います。しかし、そのままフルサイズ用としても使えるか検討して、発売に至ったのではないかと。

 ― これだけ狭いと光線が効率よくセンサーに届きませんから、私からすると悪夢のような設計です。

山木:この問題を解決する方法が何か必要です。開発にはもう少し時間がかかりますね。






シグマCEO山木和人インタビュー(DSLRマガジン2014)(その2)

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 ― フォビオンセンサーの話に移りましょう。シグマは世代を追うごとにフォビオンセンサーの性能を向上させてきました。

しかし、他のメーカー、キヤノンやソニーもどうやら多層センサーを開発中のようです。少なくともいくつか特許を申請しています。

このような他社の多層センサーについてどうお考えでしょうか?最新のクワトロセンサーと比べてどのような性能になると思いますか?

山木:いくつかの会社が多層センサーの特許を申請していることは承知しています。

 ― なるほど。特許があっても実際にセンサーを製造して、高い性能を持ち、なおかつ適切な値段で発売できるか、というのは別の話だとも思います。

山木:多層センサーが他社から発売になるかもしれませんが、仮にそうだとしても私たちのフォビオンセンサーとは異なったものになるでしょうね。現在では他社の動向についてはあまり考えないようにしています。私たちが考えるべきことは、シグマのユーザーが何を欲しているか理解し、それに応える製品を作っていくことです。例えば風景写真家はとても高画質な画像を必要としているので、ペンタックスの645Dや645Zのようなカメラを使用しています。

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 ― そうですね。フォビオンセンサーは商品撮影や建築物といった被写体に適していると感じます。強いて言うなら中判が得意とする被写体でしょうか。フォビオンの画質は素晴らしいですから。

山木:もし、カメラに求められているものが解像度だけだとしたら、例えば中版のフォビオンセンサーを作るのは簡単なんですよ。けれども、現実には現在のAPS-Cサイズのフォビオンセンサーをほんの少し大きくするだけでも、現行の中判デジタルの画質に匹敵します。フォビオンセンサーにはまだ可能性がありますし、需要もあると思います。フォビオンを大きくすることは可能です。しかし、以前も話しましたがデータサイズの巨大化が、やはりネックになってきます。

 ― ハッセルブラッドのような中判カメラをサポートすることは可能なのですか?

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山木:技術的には可能です。そっちの方向に進むこともできますが需要があればの話ですね。残念ながら現在の中判デジタルの市場は縮小を続けているんですよ。

 ― 現実的な話に戻りましょう。シグマのカメラは世代を追うごとに、振動に敏感になってきていると感じるのですが。

山木:そうです。そうなんですよ!例えば手ブレのような微細な振動は画質に大きな影響を与えます。実はこれは私たちが2002年の2月にSD9を発表した時からずっと大きな問題だったんです。でも当時はデジタルカメラの解像度が低かったので、誰も問題に気づいていませんでした。ブレが画質に影響したのを確認するにはかなりの高解像度が必要なので、ニコンが3600万画素のD800を発売したころから、ようやく一般のユーザーにも問題が認識されてきたと思います。

シグマにとってもこれは大きな問題でした。dp2はとても解像度の高いカメラなのですが、ミラーがなく、フォーカルプレーンシャッターもありません。とても軽量なレンズシャッターを使用しているのでカメラそのものに振動はほとんど発生しません。dp2は他のコンパクトカメラと比べると操作が多少面倒なのですが、このレベルの画質を撮れる他のカメラと比較すると、実は最も操作が簡単で手軽に撮影ができるんですよ。振動がほとんど発生せず、センサーの解像度はとても高いです。また、カメラに搭載しているレンズも高性能です。dpシリーズに使用しているレンズは他の交換レンズよりも高性能なんですよ。

 ― dp2のレンズはレトロフォーカスですよね?

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山木:そうです。

 ― スナップを撮ることを考えると、カメラの速度は少し足りないと感じます。

山木:そうですね、速度はあまり速くはありません。今後の課題です。フォビオンは構造的にデータ量が多くなってしまいます。有効画素数はとても多いんですよ。しかし、クワトロセンサーになってからはずいぶん改善しました。

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キヤノンはDIGICを使っていますし、ソニーもExmorという画像処理エンジンを使用していますが、実はこれらのエンジンはベイヤー用に規格化されているんです。例えばですが、ベイヤーセンサーを使用したカメラを作りたかったら、エンジンを買い、センサーを買い、メモリーを買って組み立てればプラモデルのようにキヤノンと同じようなカメラが作れます。

しかし、フォビオンは話が全く別です。データの取り扱いは専用設計ですし、規格化されたエンジンもありません。私たちはCPUから自分たちで作っていかなくてはいけないんです。なので、dp2がどんなカメラなのかというのは、説明がとても大変なんです(笑)

ベイヤー用のエンジンは、一つのチップの中に複数のチップが組み込まれているような状態で、その中に画像処理を担当するチップがあり、画像一つにつき例えば10から15ミリ秒で計算します。フォビオンセンサーではこの既存のチップを使用することはできませんから、ソフト的な処理をする必要があります。ソフトで計算をすると、組み込みのチップよりもだいたい2倍から3倍の時間がかかります。

私たちがdp2で使用したCPUは現在手に入る最高の性能のものです。それをTRUE IIIと名づけました。このCPUはとても高性能なので、コストもかなりするんですよ。CPUのコストや、汎用の組み込みチップとソフトウェア処理の話を関係者以外の人に説明するのは大変なんです。しかも、ソフトウェア処理は常に組み込みチップよりも低速ですから。唯一の解決方法はフォビオン専用にカスタマイズされたチップを製造することです。これは将来の目標ですね。

 ― 質問があります。dpユーザーが三つの焦点距離を必要としたらカメラを三つも買わなくてはならず、これは非常にお金がかかります。レンズ交換式のdpに興味があるユーザーは多いと思うのですが。

山木:私たちの会社は実際にはとても小さいんですが、ユーザーを常にサポートしていかなくてはいけません。レンズ交換式dpを作ることは可能です。しかし、新しいラインを作るということは、そのラインをサポートしていかなければならないということでもあります。私たちには既存のdpユーザーもいるので、そのサポートも継続しなくてはいけないのです。

私たちは大企業ではないので、必要以上に事業を拡大させないようにしています。何かを計画するときには常に長期的視野で考えます。もしミラーレスカメラを発売すれば、そのシステムを拡充することをユーザーは求めるでしょう。多くのレンズやアクセサリーを用意し、長期にわたってそのユーザーをサポートしていかなくてはなりません。

また、事業内容の決断も注意深く行う必要があります。ラインの停止や縮小など、事業内容を変更すればユーザーは失望するでしょう。私はそういうことが起こってほしくはないのです。

 ― 多くの学生から聞かれるのは、交換レンズメーカーのレンズとメーカー純正のレンズとではどちらが良いのかということです。私は自分の経験から、交換レンズメーカーの製品の中には純正以上のものもあると答えています。

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SIGMA 50mm F1.4 Art


山木:ありがとうございます。シグマには50mm F1.4 Artというレンズがありますが、この高性能なレンズが製造できるのも、会社のエンジニア、設計者、そして複雑な生産工程を担う工場の工員のおかげです。

交換レンズというのは現代社会において、とても面白い製品だと思います。現在ではほとんど全ての製品がデジタル的に生産されています。スマートフォン、タブレット、テレビ、全てデジタルな製品の中にアナログ的な要素はほとんどありません。デジタルなので誰にでも簡単に作れます。だから価格がどんどん下がり続けるんですね。しかし、レンズは違うんですよ。これはアナログなんです。

そして、アナログで高品質な製品を作ろうと思うと、そこには経験や知識、ノウハウが必要になります。この技術は機械ではこなせません。人間にしかできないんです。従って、従業員が、とりわけ長い経験を持つ従業員の存在が、とても大事になります。私は個人的に他社のエンジニアとも付き合いがあるのですが、彼らから聞いた話では、例えば設計部門の方からこの仕様で製造をしろという指示が来ると、工場や製造会社が生産を拒否することはほとんどないのだそうです。しかし、製造がとても複雑なものだとコストがとても高くなってしまいます。

それに対して、私たちの会津工場では一旦仕様が決まると、それを大量に高品質で生産する方法をまず模索し、生産方法の改善を続けてコストを削減していきます。私たちは他の会社に製造を委託することはしません。なぜなら、私たちと同じ品質とコストで製造ができる会社は他にないからです。

もちろん、私たちにも取り引きをしている会社はありますが、レンズの研磨は自分たちでやります。最新の機器を生産することは中国のように世界中のどこでも可能です。けれども、製品が求めているものが違えば、話はそう簡単ではなくなります。工場の製造能力は大きく異なりますし、この差がレンズの生産には決定的な違いになります。

将来、デジタルカメラは技術の進歩でもっと高画素になりますし、解像度も上がるでしょう。けれども、そのカメラの性能を満たすレンズを作るのは容易ではありません。おそらく今後は確かな技術力のある工場を持ったメーカーだけが生き残っていくと思います。

これは私の個人的な見解ですが、日本に残るという決断をしたのは本当に幸運なことだと思っています。90年代の半ばに円高が始まった頃、多くの工場が海外に移転しました。その後、多くのメーカは国内の工場を縮小したり、閉鎖したりしました。シグマは同族経営の会社で、顧客サービスを大事にしているので日本に残ることにしました。もちろん利益を出すことは大事ですけれども、高い技術を持った従業員を維持していくほうが、コストを削減するよりも重要だと考えたのです。

私たちは従業員を守ることを第一に考え、その結果、高い技術を持った従業員は会社に残ってくれました。そして、彼らのノウハウが今の高性能なレンズを支えています。これが私たちにとって一番大事なことでした。このような意味で、カメラ事業というのは他の産業とは少し違うのです。

 ― シグマにとって会津工場がもっとも重要なのですか?他に工場はないのですか?

山木:工場は会津工場一つだけです。

 ― 現在では会津工場はかなり施設が拡充されていますね。

山木:会津は日本のちょうど中央に位置するのですが、人口は減少を続けています。しかし、製造業のレベルはとても高いのですよ。富士通は工場を持っていますし、オリンパスの工場もあり、そこでは内視鏡用のレンズを作っています。とても高性能なレンズですね。





シグマCEO山木和人インタビュー(DSLRマガジン2014)(その3)

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 ― フォビオンセンサーについて質問があります。フォビオンのマーケットシェアはとても小さいと思いますが、今後も開発は続けられるのでしょうか?他のメーカーが多層センサーを開発しているという噂もありますし、事業を継続できる見込みはあるのですか?

山木:将来的にですか?

 ― そうです。今後もシグマだけがフォビオンを使い続けるのか、それとも他社に売却する可能性もあるのでしょうか。

山木:先程も話しましたが、他社が三層センサーを開発しているという噂は承知しています。実は私個人としても他社が多層センサーに向かうのは自然なことだと思っています。解像度と画質を上げるには一層のセンサーでは限界があります。三層がベストです。

しかし、お話したように、このような噂は気にしないようにしています。私はシグマがどのような戦略を取るべきか、ユーザーにどのような価値のあるものを提供できるのか、それをいつも考えています。

 ― シグマがフォビオンに投資した資金は将来回収できそうですか?

山木:ああ!無理です!絶対に不可能です(笑)フォビオンに関わった人はとてもたくさんいるんですよ。フォビオンはセンサーだけではなく、カメラシのステムにもエンジニアは必要ですから、本来なら大企業にしかできないことをやっているんです。三層を作っていると噂されているのはキヤノンですか?

 ― キヤノンとソニーですね。

山木:純粋な好奇心として、どうやって彼らが三層の問題を解決するのか、とても興味がありますね。画質のことを考えれば三層に向かうのは当然だと思うのですが、実現しようとするといくつも壁が出てくると思います。

例えば画像処理エンジンを三層専用のものにしなければならないですし、システムも完全に刷新しないといけなくなります。DIGICプロセッサーは使えませんから。このような大きな問題をどのように解決するのか、私には見当もつきません。

 ― 今後、一眼レフ市場が縮小を続けたら、現在の規模でフォビオンに投資を続けることは可能なのでしょうか?

山木:一番最初に考えるべきことは、私たちのコアビジネスが健全かどうかですね。シグマは他の会社とは違いますから。小さな同族経営の会社です。工場や事務所の従業員を維持するために利益を縮小することも可能です。

センサーにかける投資について言えば、考慮に入れなければいけないのは利益や生産性だけではなく、私たちの熱意が大事になります。私たちがカメラ事業に熱心に取り組めば、それを継続していくことは可能だと思います。カメラは父が始めた事業であり、私たちの夢なのです。カメラ事業に参入することが父の長年の夢でした。また、同族経営の会社として、私の大きな動機はシグマのユーザーを幸せにすることです。もちろん、私たちには資金が必要です。しかし、事業全体が好調なら、カメラ事業も続けていけるでしょう。

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 ― シグマのDPシリーズのデザインはいつも業界の標準から少し離れたものでした。しかし、今回のdp Quattroはこれまで発売されたどのカメラとも異なっています。このデザインになったのは意図的に「他のものとは違うデザインにしよう」と思ったからなのでしょうか?あるいは、多くの人の注目を集めようとしたのでしょうか?

山木:ああ、それも理由の一つではあります。しかし、一番の理由ではありません。dp Quattroは分類上はコンパクトカメラなのですが、内部のシステムは例えばキヤノンの1Dsと同等なのですよ。画像処理用のチップが二つと、それぞれに対応したメモリーを二つ搭載しています。dp2の長いボディはグリップとレンズの間に、それらのチップを配置しているからです。

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二つ目の理由はどのような形状がカメラを構える時に最適なのかを考えたからです。最もバランスの良い構え方が何かを調べ、出た結論が左手でレンズを支えることです。そのためにレンズ鏡筒を太くしました。

dp2 Quattoroのデザイナーはミラノに住んでいるのですが、彼に出した指示は「今までになかった形のボディをデザインして欲しい」ということです。このカメラは設計思想から特別なカメラです。車に例えて言うと、dpはトヨタではありません。トヨタやVWのファミリーカーやミニバンではないんです。

例えるなら2シーターのフェラーリです。フェラーリのユーザーで、シートが2つしかないことや、トランクがないことに不満を持つ人に会ったことがありません。

世の中に出ているカメラのほとんど全てがある約束事の下で作られています。でも、私たちが目指したのはそれとは全く違うものでした。このカメラのユーザーは非常に限られた人たちです。なので、デザイナーも、例えるとロータスのようなものを作ったのです。このカメラが特別なものだとわかるために、細部にわたってこだわって作っています。なので、実際に手に取るだけで、その品質を感じることができると思います。

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 ― ボディが長いのはチップのせいなのですか?

山木:チップですね。グリップのバッテリーの所にもあります。

 ― 車の話になりますが、ジム・ホールが作ったシャパラルという車をご存知でしょうか?これは世界で初めて複合材を使用したレーシングカーです。2Eモデルはボディよりも大きなウィングを搭載しています。シャパラルはいくつかの大きなレースで勝利しました。また、運転手は左足を使ってウィングの位置を調節したそうです。

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シャパラル 2E

山木:本当ですか?

 ― 本当です。私の個人的な見解ではQuattroの革新さというのは、ロータスよりもさらに革新的な、ジム・ホールのシャパラルに近いのではないかと思います。

山木:スペインの車なのですか?

 ― いえ、60年代のアメリカの車です。

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山木:新しいデザインコンセプトが今後どうなるのか、具体的には決まっていないのですが、グローバルビジョンの発表前に発売されたレンズは、順次アート、スポーツ、コンテンポラリーのラインに更新されていく予定です。また、先程も話しましたように、既存のレンズとは全く異なるレンズも作りたいので、今の3つのラインがさらに増える可能性もあります。具体的にいつ頃かはわかりませんが。

 ― 新製品の発売があるとすれば次のCP+がいいタイミングですね。

山木:そうですね。CP+では毎年新製品を発表していますから、2015年2月のCP+でも新製品を発表する予定です。

 ― CP+の前にCESもありますが、シグマは参加しますか?

山木:次回のCESには参加しません。お恥ずかしい話なのですが、会場の南側のiPhoneアクセサリーを発売している会社の隣のブースしか空いてなかったのですよ。

 ― シグマの50mm F1.4とツアイスのOtusのサイズについて聞きたいのですが。

山木:そもそも、シグマが50mm F1.4の開発を始めた時にはOtusについては何も知らなかったんですよ。目標は世界最高のレンズを作ることでしたが、それでも、出来る限り軽量にしたいという目標がありました。ユーザーの要望も調査したのですが、軽量なレンズを欲しがるユーザーはキヤノンやニコンの純正を買うだろうという結論になりました。

当時はこの性能のレンズは市場に存在していなかったので、とにかく高画質を追求しようと決めました。結果として出来た50mm F1.4の性能に私は満足しています。そもそもの開発コンセプトはダブルガウスなんですよ。

 ― ダブルガウスは前後対称の構造なので歪曲がとても小さくなるのが特徴です。

山木:そうです。今回はそれをさらに発展させて「ダブル・ダブルガウス」構造にしました。レンズが二つ合わさったようなものです。50mm F1.4を設計したのは35mm F1.4と同じ技術者で、設計思想も似通っています。35mmはレトロフォーカスなので少し構造は違いますけど。

 ― 50mmはレンズ鏡筒も太いですが、これは超音波モーターで強いトルクが必要だからなのでしょうか。

山木:それも理由の一つですが、一番の理由ではありません。レンズ経が大きければモーターにトルクが必要です。モーターの種類によってそれぞれ長所は違います。超音波モーターの長所は動作が静かということですね。

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 ― メーカーによってはステッピングモーターを使用しているものもありますね。

山木:ミラーレス用のレンズやdp2 Quattroのレンズではステッピングモーターの方が良いです。動作がスムーズですし、ミラーレスは動画などいろいろな用途がありますから。一眼レフ用では超音波モーターかリニアモーターがベストでしょう。ステッピングモーターは安価という特徴もあります。

シグマの製品は全て自社で設計・生産をしています。私たちは生産工程を外部に委託したくないからです。製造工程の一部はとても重要ですし、コストを下げつつ品質を維持するためには自社生産をするしかありません。もし生産工程の一部を外注にすれば品質は妥協せざるを得ないし、コストも上がるでしょう。

 ― 会津工場を訪問するのをお勧めしますね。

山木:本当にそうですね。会津工場は日本最大のレンズ工場です。ひょっとすると中国にはもっと大きな工場があるかもしれませんが、一つの敷地内で多種多様なレンズやカメラ用品を作り、数多くの生産工程を見れるのは会津工場だけでしょうね。

先程も話しましたが、高性能なレンズを設計・製造できる工場は将来もっと重要になっていくと思います。

カメラが画素数を増やすのは比較的容易なんですよ。しかし、それに対応できるレンズを作るのは全く別の話です。その観点から言えば、地元で生産をするというのが最も重要になります。最近のビジネスのトレンドは、可能な限り安価で多くの部品を買い、人件費の安いところで組み立てることです。けれども、高級レンズに限ると、この方法は問題が出ます。というのも、品質の管理がとても難しくなるからです。

地元で生産するのはとても楽なんですよ。簡単に集まって顔を見ながら話ができる。例えば0.0001mmの誤差を許容するかどうかについて話し合う場合、外注先と連絡を取りながら話を進めるのはとても難しいです。

もし、利益を追求することだけが目的ならこの方法は時代遅れです。しかし、高品質のレンズを作るにはこれが最適です。




シグマCEO山木和人インタビュー(DSLRマガジン2014)(その4)

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 ― 多くの評論家がシグマのレンズをキヤノンやニコンではなくツアイスと比較しています。これについてどうお考えですか?

山木:とても自然な流れだと思いますね。というのも、メーカーのレンズと私たちのレンズとでは設計思想が異なるからです。キヤノンやニコンのレンズはマウントや重さ、サイズ、品質のバランスを取らなければならないのでどうしても妥協が生まれます。

しかし、シグマやツアイスは画質だけを追求しています。なので、シグマのレンズをキヤノンやニコンのレンズではなくツアイスと比較するのは理にかなっています。

 ― しかもこの比較はツアイスの中でも最高級ラインであるOtusとです。

山木:もちろんOtusが比較対象でしょうね。

 ― 評論家はOtusとシグマを比較していますが、値段は3倍もの開きがあります。

山木:ひょっとすると私は値付けを間違えたのかもしれませんね(笑)繰り返しになりますが、私たちがこの値段で発売できるのは全て自社で生産をしているからです。外部委託が増えれば値段はもっと高くなったでしょう。また工場の生産能力も非常に重要です。

もう一つ大事なことは、私たちの会社には無駄がほとんどないということです。営業部、管理部、マーケティング部にはそれぞれ最小の人員しかいません。利益は全て製造と開発部門に投資し続けています。

 ― 50mm F1.4 Artはどれくらいの本数売れたのでしょうか?

山木:それはちょっと公表できません。ただとてもたくさんの注文があるので、なるべく早く欲しい人に届けたいですね。

 ― シグマは会津工場を拡充する予定だそうですが、生産量も増えるのでしょうか?

山木:今のところは生産量を増やすつもりはないですね。現在一眼レフのマーケットが縮小傾向にあるので、生産がピークでも従業員を増やさずに対応する必要があります。従業員を新たに雇い、生産量を増やしても、その後需要が減少すれば対応が苦しくなります。市場の成長が止まっている現在、それはしたくはありません。また繰り返しになりますが、私たちのゴールは利益ではなく従業員の雇用を守ることであり、ひいては会社を維持していくことだからです。

 ― フォビオンセンサーに関して、他の会社から使いたいというオファーはあるのですか?

山木:ああ、ええ、まあ。とある会社が一度検討したことはあります。しかし、彼らがどれくらい本気だったのかはわかりません。現在も検討中とのことです。

 ― フォビオンの技術を広く他社とも共有していく考えはありますか?それともシグマだけで独占するつもりなのでしょうか?

山木:基本的にはシグマだけで使いたいと思っています。これが私たちのカメラが他社とは違う一番の要因ですから。営業的にはなかなか難しい話なのですが、基本は私たちで使うという方針です。ただ、他の用途、例えば産業用であったり医療用であったりといった目的であればフォビオンが他で使われても構わないと思っています。

 ― フォビオンの感度についてはどうでしょうか?

山木:シグマのカメラのユーザーにとって、感度は重要な要素ではなさそうです。実際にそれほどひどくはないんですよ。dp2 Quattoroのユーザーは例えばペンタックス645のユーザーに近いと思うのですが、どちらのユーザーにも感度性能はそれほど重要ではないでしょう。日本のシグマのユーザーはそんなにせかせかしていないようです。例えば三脚にペンタックス645Zとdp2 Quattoroを載せて画質を比べてもらえれば言っていることがわかると思います。

 ― CP+についてどのようにお考えでしょうか?年々大規模になってきていますが、フォトキナと同じくらい重要なのでしょうか?

山木:CP+はローカルなイベントだと思います。日本ではそれほど多くの人が英語を話せませんし。言葉の壁が一番大きな障害でしょうね。

私自身もCIPAの代表理事副会長ですし、CP+の運営に関わっていますので、どうやってイベントを良い物にしていくのか常に議論しています。しかし、これ以上大きくするという方向性ではないですね。

ただ、主要な会社が最新のハイエンド機器を発表する場、という性格は今後も続くと思います。

 ― レンズの話に戻りますが、スナップ写真を撮っていると例えば24-70mm F1.8のようなレンズがあればいいなと思うことがあります。しかし、市場に出ているのはF2.8かそれよりも暗いレンズしかありません。

山木:光の物理法則は決まっているので、革新的な製品を作るのはとても難しいんですよ。フルサイズF1.8ズームとなると革新というより進化に近いです。レンズの進歩は少しずつ、段階を踏んでしかなされません。そのようなレンズを作るのはとても困難を伴いますが、シグマは常に新しいものにチャレンジしてきた会社でもあります。

例えば「スタンダードズームレンズ」を作るのは、そのような困難の一つです。24-70mmを作るのはとても難しいんですね。個人的な意見ではニコンの24-70mmはあまり良いレンズではないと思います。それに対してキヤノンのレンズは素晴らしい性能です。比較するとわかりますけど突出しています。

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 ― タムロンの24-70mmもかなりそれに近い性能だと思います。

山木:ただ、どのレンズであれ言えることは、ズームレンズの性能は単焦点レンズの性能には及ばないということです。標準ズームは広角から標準、望遠までカバーしていますが、それぞれの焦点距離では取るべき方法が全く異なるからです。それを満たすために妥協が必要になりますから、一般的に画質は低下せざるを得ません。

 ― 非球面レンズについて教えて下さい。一般的に非球面はレンズ枚数を減らすために使われるのでしょうか?

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山木:そうですね。私たちのレンズにも非球面をたくさん使用しています。しかし、もし最高の画質を追求するのならレンズの枚数を減らすことは難しくなります。

単に軽量で小型のレンズを作ることならできるんですよ。けれども、画質を上げようとすると別の話になります。先程も話しましたが、レンズの設計は光の特性という古典物理学の制約を受けます。その制限の中で技術を駆使して新しいレンズを開発しているのです。

 ― 現在市場に出回っているカメラやレンズは、おそらく私たちのほとんどにとって十分な画質だと思います。そうなると、新しいレンズが進む方向はより明るく、軽量で持ち運びやすいという要素になってくると思うのですが。

山木:それは理解できます。しかし、私たちには数十万人ものユーザーがいて、彼らに軽量で明るいレンズを行き渡らせるには1年近くかかりますし、現実的ではありません。実際に、おっしゃられたような軽量で明るいレンズは中古市場でたくさん手に入るんですよ。

シグマの製品には私たちのメッセージが込められています。私たちはレンズに新しい価値を加えているのです。不特定多数に向けて製品を作るのはビジネスとしてもあまり健全ではないと考えています。世の中には一般向けのレンズがほしいと思う人もたくさんいることはわかりますが、シグマは新しい価値を追求しています。私たちは既存の製品にはないものを提供していきたいのです。

 ― 例えば将来35mm F1.4を更新するとして、どのような方向性に進むのでしょうか?35mm F1.2になるのか、さらなる高画質を目指すのか、あるいは同じ画質を維持しつつ小型軽量になるのでしょうか。

山木:その判断をするにはもっと時間が必要ですね。例えばキヤノンが5000万画素の一眼レフを作ったら、今よりも高画質なレンズを作らなくてはいけません。もし、キヤノンが2000万画素のままだったら、今の画質のまま小型化するということも考えられます。開発の方向を決めるのはカメラとレンズのバランスなのです。

例えばニコンの58m F1.4というレンズがありますが、これは私たちの50mmよりもかなり軽量です。58mmというのは50mmよりも作りやすい焦点距離ですし。両者を並べて実際に画質を比較することも出来ます。

 ― はい、私たちのサイトでも行いました。

山木:この二つのレンズは設計思想から異なっていますね。

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 ― シグマが使用している非球面レンズはガラスモールドなのでしょうか?

山木:ほとんどがそうですね。一部にハイブリッド非球面レンズも使用しています。

 ― どこかのサイトでキヤノンが液体レンズの特許を申請しているという話を見たことがあります。

山木:もし実現可能だったら、液体レンズは世界中のレンズのあり方を変えるでしょうね。けれども、液体レンズの技術そのものは20年前から議論されているんですよ。

 ― そうですね、正確には24年前です。

山木:よくご存知ですね(笑)

 ― 実は最初に液体レンズの特許を申請したのは航空機会社のロッキード・マーティンなんですよ。

山木:液体レンズで最も困難なことは曲面の精度です。例えばセンサーを作る時に使われるステッパーレンズに液体を使うことがありますが、これはカメラ用のレンズと比べて、とても大きいんですね。

しかし、カメラ用のレンズは許容範囲は非常に非常に狭いんです。例えばレンズの大きさがドイツ全域の大きさに等しいとしましょう。しかし、このサイズでさえ、許容される誤差は3~4mmしかありません。液体レンズでこのレベルの精度を出すのはとても困難だと思います。

 ― それ以外にも液体に使われるポリマーの経年劣化はとても早いですし、温度差の影響も受けやすいですね。

山木:そうですね。同様の問題はプラスチックレンズにも現れます。現在はスマートフォンで多く使われています。屈折率のことを考えると、プラスチックレンズの選択肢は非常に限られてくるんですよ。またお話されたようにプラスチックレンズの弱点は温度差です。低温から高温に変化すると形状が大きく変化しますから。

私の知る限りではキヤノンは10-18mmにプラスチックレンズを使用していますが、性能への影響がほとんどない場所で使用していると思います。使用に問題がなければ私たちもプラスチックレンズの使用にやぶさかではないのですが、最新のレンズでも気温が10度から25度までの間でしか性能を維持できません。私たちのユーザーはマイナス20度の環境でも撮影を行っていますし、車のダッシュボードに置いておけば簡単に60度に達してしまいます。

カメラは電子機器です。コンピュータと同じスクリーンがあり、CPUがある。けれどもカメラにはセンサーがあります。そして最高の画質を得るためには電子機器だけではない、レンズという別の領域でも高い品質を維持しなくてはならないのです。



会談はこの時点で2時間にもなり、残念ながら終了する時間になった。山木氏は7日前に日本から飛行機でスペインに来たばかりで、次の滞在地であるマドリードに行かなければならなかった。氏の会談への参加に感謝し、別れを告げた。
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シグマCEO山木社長インタビュー(Fotografia 2014)(その1)

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-今回はインタビューに参加いただき、大変ありがとうございます。

山木:ありがとうございます。

-かつて会津工場を見学に行った時に、道広氏がシグマの製品は全て会津工場で作っているとお話されました。

山木:そうです。

-それは現在も変わっていないのですか?

山木:同じです。90年代の半ばに円高が進行し、製造コストが高くなってしまいました。その結果、多くの会社が工場を中国やマレーシア、タイなどの海外に移しました。

私たちの会社でも大きな議論になりましたが、最終的に日本に残ることを決断しました。シグマは同族経営の株式非公開企業です。もちろん、売り上げや利益を向上させるのは大事なことなのですが、一番大事なのは雇用を維持することです。もし、私たちの工場を海外に移転すれば、工場で働いている従業員を解雇しなくてはいけません。海外に工場をつくりながら、国内工場も維持することは出来ませんから。

しかし、それは私の父が望んだことではありませんでした。最終的に日本に残ることに決め、そのために、製品のラインナップを変えていくことにしました。

当時の私たちの主力製品は、初心者向けのものが中心でした。高性能な製品を作るのは大変で、それだけでビジネスを続けるのは難しかったからです。しかし、製品のターゲットを初心者向けから中級、高級へと広げていくことを決断しました

-国内で作り続けるということは製品の品質を管理しやすくなるというメリットもありますね。

山木:そうです。例えばレンズに関して言えば、製造のプロセスはどんどん複雑になってきて、これまでよりも、もっと難しくなっています。なので、経験豊富な技術者を抱えているということが、高性能な製品を作る上で、とても重要になっているのです。

また、材料を仕入れる取引先も会津工場周辺にありますから、もっと高性能な製品を作るために、実際に顔を合わせて打ち合わせを行うことが容易にできます。

このような生産方式は、実は業界でも稀です。今日では多くの企業がいわゆる「グローバル調達」方式を取っており、世界中から一番安い部品を調達して、一つの工場で組み立てています。私たちの現地での一貫生産という方法は、現代の製造業のトレンドから見ると、とても珍しいのです。しかし、私自身は、高性能な製品を作るためには、この生産方式がとても重要であると確信しています。

-私たちもシグマの製品の高い性能を確認しています。最近も誌上で50mmF1.4 Art18-35mmF1,8 Artをテストしたのですが、とても素晴らしい性能でした。

山木:どうもありがとうございます。

-実際に私たちの行ったテストチャートを見られてはいないと思うのですが、とても感銘を受けました。シグマの製品は同カテゴリーの中で最も高性能だったのです。キヤノンやツアイスよりも数字が良くて、とても驚きました。数年前のシグマの製品とは全く違うこれらの高性能なレンズを、どうして作ることができるようになったのですか?

山木:それには三つの理由があります。まず一つ目は私たちの会社には高性能な製品を作る環境が整っているということです。昔はなかったような特性の良いガラスが今はありますので、それを使ってより性能の高いレンズを作れます。

また、コンピュータの性能も向上していますので、光線の追跡のために行う計算も、これまでより短時間で行えるようになっています。例えば私が入社した当時は、設計者がデータを入力すると計算終了まで2030分も待ち続けたのです。現在のコンピュータはとても性能が高いので、常に光線の動きを演算をさせながら設計を行う事ができます。その結果、レンズ設計のサイクルそのものが短縮化されましたし、設計者も色々なオプションを試しながら設計ができるようになりました。

これが一つ目の理由です。しかし、これは他の会社でも同じことです。二つ目の理由は、幸運にも、私たちの会社にはとても優秀なエンジニアがいるということです。シグマでは大学を卒業したばかりの人材を雇うことが多いのですが、入社する前から、シグマは写真機材しか扱っていないということを彼らは知っています。他の製品、例えばプリンターやコピー機や半導体を作っているわけではありません。シグマはカメラしかやっていないんです。なので、写真に関わる仕事、例えばレンズの設計やカメラの開発がしたい人は、自然とシグマに入社することを希望してきます。

特にここ数年シグマに入社してきた人材は、写真やカメラに対してとても熱心です。彼らは24時間ずっとカメラやレンズについて考えています。そういう人材がシグマにはいるので、より良い製品を作ることができるのです。これが二つ目の理由です。

しかし、最も大きな理由は、繰り返しになりますが、日本の会津工場だと思います。会津工場の技術力や製造能力はとても高く、スタッフは豊富な経験を持っています。彼らは設計部から出された複雑な設計の部品でも対応できる能力があります。

これは他の会社ので働くエンジニアから聞いた話なのですが、現場が設計部の注文を拒否するということが時々起こるそうです。設計がとても複雑だと、仮に製造をしたとしても、生産量はとても少なくなってしうので、効率が悪くなります。

かつて、とある会社で働いているエンジニアが「シグマのエンジニアが羨ましい」と私に話したことがあります。私たちの工場ではどんな複雑な設計でも対応できる能力や技術がありますから。

シグマの工場がそれだけの技術を持つことが出来たことをとても誇りに思っています。これが高性能な製品を製造できる理由です。

-先ほど、製造が難しいレンズという話をされましたが、例えば加工が難しいガラスというのもあるのでしょうか?FLDガラスのような特殊なレンズは取り扱いが難しいのですか?

山木:そうですね、FLDは加工が難しいガラスの一つです。FLDや、私たちがSLDと呼んでいる特殊低分散ガラスも、通常のガラスと比べて柔らかく、研磨の段階でとても慎重な取り扱いが必要です。表面に傷やヘコみがつきやすいからです。また、それと同時に、研磨をする部署では多くの人が働いていますから、そこにいる人全てが、注意深く作業をする必要があります。もし、一人の人間が注意を怠ったら、それだけでたくさんのレンズに不良品が発生してしまします。結果的に生産量も低下してしまいます。

-蛍石も同じですね。とても柔らかく、慎重な取り扱いが必要になります。通常は蛍石をレンズの最前面に使用することはありません。

山木:その通りです。

-FLDガラスと蛍石との違いは何なのでしょうか?

山木:光学的な特性はほとんど同じです。ただ、製造過程が異なっていますので、FLDのコストは蛍石と比べてとても安価です。

-シグマのレンズは一つずつ、自社開発のMTF検査装置でチェックされているとのことですが、どうしてそれを始めたのでしょうか?

山木:私たちはシグマのユーザー全員にシグマの製品を楽しんでほしいと思っています。高性能なレンズを設計できたなら、その性能を全てのレンズが発揮できるようにしたいのです。そのために、すべてのレンズを検査する必要がありました。

-しかし、実際にすべてのレンズをチェックするのは大変なのではないですか?どうして他の会社は全数検査を行っていないのでしょうか?

山木:他の会社がどのような検査体制なのかは詳しくはないのですが、私たちにとってはあまり困難な作業というわけではありません。単純に組立ラインの最後に検査があるだけなので、製造時間が少し多めにかかるということだけです。

それよりも難しかったのは検査装置を自分たちで開発するということでした。そして、実際の検査時間を出来る限り最短にするのが最も困難でした。今使っている検査装置のA1以前にも、私たちは自社開発の検査装置を使っていました。それには通常のベイヤーセンサーを使っていたのですが、高性能なレンズを測定するための解像度が十分ではなかったのです。当時は高解像度なセンサーが業界そのものにも存在していなかったのですが、私たちは高解像度なSD1の発売間近で、ニコンもD800の発売を控えていました。

私たちには、SD1D800に見合うだけの解像度を持つMTF検査装置が必要だったのですが、当時の検査装置はそれよりも解像度が低く、私たちも困っていました。その後、「自分たちには高解像度なSD1のフォビオンセンサーがあるじゃないか」と気づいたのです。そして、フォビオンセンサーを使った検査装置を自分たちで作ると決めました。

フォビオンを使った検査装置というのは今までになかったものなので、これを作るのはとても苦労しました。しかし、私たちはカメラを作ってきた経験がありましたので、レンズを検査するためにどうやって画像データを処理すればいいかわかっていました。実際に開発を担当したエンジニアは素晴らしい仕事をしてくれたと思います。

また、実際の組立ラインで使用するためには、検査時間は可能な限り短い必要があります。研究室や実験室で調べるわけではありませんから。エンジニアは研究を重ねて、短時間で検査ができる装置を開発してくれました。

-その検査装置を使えば短時間でレンズの様々な特性を調べることができるのですか?

山木:装置のインターフェイスそのものはとても単純で、誰でも使うことが出来ます。機械にレンズをセットしてボタンを押すだけで、自動的に検査が始まり、レンズが合格か不合格かがすぐにわかります。






シグマCEO山木社長インタビュー(Fotografia 2014)(その2)

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(その1の続き)


-先日シグマは150-600mmというズームレンズを2つのラインで発売すると発表しました。これはなぜですか?

山木:そもそも今回のプロジェクトは既存の150-500mmを更新するものとして開始しました。そして、開発のゴールは望遠端を600mmまで伸ばすことでした。同じスペックのままだと似たようなレンズにしかならないからです。

望遠端を600mmに伸ばしつつ、二つのゴールを達成しようと考えていました。一つは高い光学性能です。もう一つは、レンズをコンパクトにすることでした。前モデルの150-500mm500mmのズームとしては比較的コンパクトなレンズなので、同じようなレンズを作りたかかったのです。

しかし、実際に設計している段階で、周辺の色収差がどうしても大きくなってしまうことがわかりました。これを上手く消すのはとても難しいのです。もちろん、そんなに大きな収差ではないのですが、レンズサイズを小さくしようとすると、この周辺の収差は消せないことがわかりました。

この問題について開発メンバーが何度も議論したのですが、エンジニアの結論は、色収差を減らすにはレンズを大きくする以外に方法はないということでした。しかし、そうすると、最初に掲げたゴールの一つである「コンパクトな望遠ズームレンズ」は作れなくなってしまいます。

私自身、どうすればいいかとても悩みました。何週間も考え、最終的にプロジェクトを二つに分けることを決断しました。一つ目は周辺の色収差も極限まで減らした、最高の画質を目指したレンズです。もう一つは画質とサイズ、重さ、価格のバランスを取ったレンズです。

実際にこの二つのレンズは中心を見る限りではあまり大きな違いはありません。周辺の色収差だけが違います。画質を追求したいユーザーにはスポーツラインをお勧めしますし、バランスの取れたレンズが欲しいユーザーはコンテンポラリーラインを選んで欲しいですね。

-最新のデジタルカメラはボディ側で軸上色収差や倍率色収差、歪曲などを補正しています。レンズには収差を残し、カメラのほうでそれを補正することについてどのように考えていますか?

山木:ボディでの補正は選択の一つだと思います。画質を向上させるために有効な技術の一つでしょう。しかし、私個人としては、レンズそのものから得られる画質が良いものであるべきだと考えています。

そもそも、シグマは互換レンズメーカーです。なので、私たちのレンズにはカメラの補正は自動的に適応されません。シグマのレンズで撮られた画像を補正するには画像編集ソフトを使わなければならないので、ユーザーの中には煩わしいと思う人もいると思います。これが一つ目の理由です。

もう一つの理由は、レンズの寿命はカメラのそれよりも長いのです。今のカメラはほとんど完全なデジタル機器です。一眼レフはまだ機械部品を使っているのでデジタルとアナログの融合と言えるかもしれませんが、大部分はデジタルです。

デジタル機器の寿命はどんどん短くなっています。例えばデジタルカメラは2~3年ごとに買い換えられるようになっています。しかし、レンズの寿命はカメラよりもずいぶん長いです。もし解像度の高いレンズを使っていれば、新しいカメラボディでも使い続けることが出来ます。したがって、可能な限り高性能なレンズを提供していくことは、将来のことを考えてもとても重要な事だと思います。

レンズはユーザーにとって大事な資産です。将来、写真にとってレンズはカメラよりももっと重要なものになっていくと思っています。レンズの寿命はカメラよりも長いので、品質をもっと重視していく必要があります。

-シグマにとってもっとも重要な製品はデジタル一眼レフ向けのものだと思いますが、ミラーレスカメラはどうなのでしょうか?シグマは現在マイクロフォーサーズとソニーEマウントをサポートしています。フジフィルムやニコン1、キヤノンMなどをサポートしていく予定はありますか?

山木:ミラーレスカメラの存在感は今後も増していくと思います。シグマも常にミラーレス用のラインナップを拡充させようと努力しています。本当は可能な限り多くのマウントをサポートしたいと思っています。レンズ製造会社として、多くのマウントに向けたレンズを作るのは、私たちの使命だからです。

しかし、私たちの開発リソースは限られています。現在やらなければならないことがたくさんあります。もっと高性能なレンズを作ることや、製造効率を上げていくことなどです。新しいマウントをサポートするのにはとても時間がかかりますし、開発リソースも必要になります。従って、私たちのユーザーはどのような人たちなのかということを、見極める必要があるのです。

繰り返しになりますが、シグマは現在レンズを日本国内だけで製造していますので、コストは高いです。それゆえ、私たちはシグマユーザーを「写真愛好家」だと判断しています。写真に真剣に向き合っている人たちに向けて、製品を作っています。もし、ラインナップを拡充するとしたら、そのような真剣な写真家に向けたものになるでしょう。ミドルクラスからハイエンドのミラーレスカメラに向けた製品を作っていくことになると思います。

-ハイアマチュアやプロの中にもミラーレスを使っている人はいます。そのような人たちに向けた製品を作っていくということでしょうか。

山木:そうですね。その予定です。

-シグマは新しくマウント交換サービスを開始しました。これまでどれくらいのユーザーがこのサービスを利用したのですか?

山木:具体的な数字を言うことは出来ないのですが、今のところ、このサービスを利用した人はごく僅かです。マウント交換サービスは新しいグローバルビジョンのレンズでしか使えないので、アート、スポーツ、コンテンポラリーの各ラインを合わせても、それほど多くの種類のレンズがあるわけではありません。また、新ラインのレンズは発売して間もないですから、マウント交換をした人はとても少ないです。しかし、将来的にはもっと多くのユーザーがこのサービスを利用すると思います。

そもそもこのサービスを開始したのは、最近の傾向として、あるマウントから別のマウントに完全に切り替えるユーザーや、キヤノンやニコン、ソニーなど、複数のマウントを維持しているユーザーがいることに気づいたからです。これは新しいトレンドだと思います。20年から30年前のフィルムカメラの時代には、ユーザーは一つのシステムをずっと使い続けていました。しかし、今はあるシステムから別のシステムに移行することが多くなっています。

先ほども話しましたように、私たちはできるだけ長くユーザーにレンズを使ってほしいと思っていますので、このサービスはユーザーのためになると判断しました。

-将来のレンズには、どのような新しい技術が使われていくと思いますか?新素材やナノ技術、非球面レンズの生産方法、新しい機械部品など、どのような技術が今後レンズに取り入れられていくと考えていますか?

山木:私たちは常に新しい技術を製品に取り入れるようにしています。現在では、そのような技術を使わなければ、高性能なレンズを製造することは出来ません。将来は、高性能なレンズを作ることは、今まで以上に難しくなっていくと思います。カメラは今後も解像度がどんどん上がっていくでしょう。カメラはデジタル機器なので、多くのメーカーがより高解像なカメラの開発を続けていくと思います。

しかし、レンズのことになると、これは全く別の話になります。レンズはアナログ機器なので、劇的な性能の進歩ということが起こりにくいのです。これを克服するためには新しい技術を取り入れていくしかありません。個人的に、レンズに使われる技術というのは革新的な変化は起こらないと思っています。それよりも、既存の技術を改良して、少しずつ改善、向上していくものです。部品の誤差を減らしていき、レンズ研磨をもっと精密に行い、より高い精度で組み立てる。このような地道な作業が、高性能レンズの製造には大事になってきます。

-つまり、これまで全く存在していなかった技術が、レンズそのものを全く変えてしまうという、そのようなことは起こらないのでしょうか。

山木:私の知る限りでは、少なくとも今後数年はそういうことはないと思います。

例えば新しい試みとして、プラスチックレンズというものがあります。特性がガラスとは違うのでいろいろな可能性があるのですが、実際に使用するのは難しいです。私たちのレンズは様々な自然環境で使用されているのですが、気温はマイナス20度から50度まで様々です。しかし、プラスチックレンズは気温の変化に弱いのです。

また、液体レンズというものもあります。これは20年以上昔からずっと議論されてきたのですが、表面の精度を出すのがとても難しいです。

今の時点では、レンズの素材そのものはガラスを引き続き使用し、そこに新しい技術を使っていくのが現実的だと思います。

-液体レンズは比較的新しい技術です。カメラのレンズ以外で使われる可能性はあるのでしょうか?

山木:液体レンズそのものはとても興味深い技術だと思います。長年に渡り話題になってきました。しかし、実用化には解決しなければならない問題がたくさんあります。高い精度を要求する製品で使うにはもっと時間が必要だと思います。

しかし、精度が必要でないに製品には、液体レンズを使うことは可能だと思います。例えばスマートフォンのカメラや、初心者向けのカメラなどです。個人的に、新しい技術はまずエントリーレベルの新しい製品から使用される事が多いと感じています。そのような製品は多少のリスクがあっても大丈夫ですから。

そうやって新しい技術を使った製品が上手く行って、多くの製品に利用可能になったあとで、ようやくハイエンド製品がその技術を採用する傾向が強いです。つまり、高級機は新技術を最後に使うことが多いのです。






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